治療・予防

がんの放射線治療で生じるドライマウス
治療前から歯のケアを(中川駅前歯科クリニック 二宮威重院長)

 脳から下、鎖骨から上の領域を頭頸(とうけい)部といい、発語やそしゃくなどに関わる重要な組織が密集している。頭頸部に生じる舌がんや甲状腺がんなどには放射線治療を行うことが多いが、合併症が出る場合もある。「ドライマウスもその一つです。事前に口腔(こうくう)内の環境を整え、機能を高めておくことが大事です」と中川駅前歯科クリニック(横浜市)の二宮威重院長は話す。

放射線治療の前後ともに歯科通院を

 ▽症状は総線量に比例

 頭頸部がんの治療では、体への影響が小さく、組織や機能を残すことができる放射線が基本となる。ところが放射線は、唾液を分泌する唾液腺の正常な組織にも少なからず影響を与えてしまう。唾液の分泌量が減ってしまうと、口腔内が乾燥してドライマウスになる。

 唾液腺は左右の耳の下から顎にかけて分布し、この部分に放射線が照射されるとドライマウスの症状が出やすくなる。症状の強さは放射線の総線量(1回に照射する線量×回数)に比例する。二宮院長は「総線量が20グレイ程度で唾液がねばつき始め、60グレイ近くになると、唾液の分泌量が極端に減少。60グレイを超えると、全く唾液が出なくなることもあります」と説明する。照射部位によって、余分な放射線の照射を回避するために、スペーサーと呼ばれるマウスピースのような器具を装着したり、放射線が散乱しないよう、口腔内の金属のかぶせ物や詰め物をプラスチックに変更したりするケースもあるという。

 ▽薬や食の工夫も

 放射線によるドライマウスの治療には、唾液の分泌を促すピロカルピン塩酸塩という薬を服用し、口腔内に塗る保湿ジェルや、保湿スプレーなどを併用する。小まめな水分補給も必要だ。麦茶や水など、カフェインやアルコールが入っていない飲料を選ぶとよい。食事の工夫もできる。二宮院長は「唾液の分泌が促されるよう、肉や魚なら焼く、煮物なら煮過ぎない、サラダは野菜を大きく切るなどで、かむ回数を増やす工夫をしてみてください」とアドバイスする。

 加えて、放射線治療前から虫歯や歯周病の治療を行う。入れ歯の調節をしてきちんとかめるようにしておくと、ドライマウスを軽減しやすい。

 唾液は潤滑油や殺菌の役目を果たしているので、減少すると、味覚障害や話しづらい、飲み込みにくいなどの症状に加え、虫歯や歯周病、口腔カンジダ症などカビが繁殖する病気も起こりやすくなる。二宮院長は「放射線治療後も定期的に歯科に通院して、口腔内のクリーニングやメンテナンスを欠かさないようにしてください」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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