2024/12/06 17:18
キャラクター活用による病院内での心地よい空間づくりの取り組み
◆発表のポイント
・放線菌Streptomyces incarnatusが生産する核酸系抗生物質(注1)シネフンギンはSARSコロナ,デング熱,猫ヘルペスなど人畜感染ウイルスの細胞内増殖を強く抑制します。しかし生産量が極微量であるために社会的に活用されていません。
・本研究では,機械学習Sparse解析(注2)で設計した変異コードを放線菌の転写装置に導入するゲノム編集技術を確立することにより,抗ウイルス薬シネフンギン(注3)の増産技術を開発しました。
・抗ウイルス抗生物質は数多くの文献に報告されていますが,医薬品として実用化されたものは皆無です。本研究による遺伝子覚醒技術は抗ウイルス薬を社会で利用する路を切り開きます。
岡山大学学術研究院 環境生命科学学域の田村 隆教授と山本倫生准教授,坂本 亘教授,および京大,東大,神戸大などの共同研究グループは,抗ウイルス活性,抗原虫活性,抗真菌活性を持つ核酸系抗生物質シネフンギンの増産技術を開発しました。シネフンギンは発酵生産にかかわる遺伝子群が休眠状態にあり,極微量(< 2 ppm)しか生産されません。そこで遺伝子発現のボトルネックである転写装置RNAポリメラーゼ(RNAP)(注4)を任意に改変できるゲノム編集技術を開発しました。次にRNAPの突然変異効果の文献データをアミノ酸パラメータAAIndexに参照してSparse解析を行い,機械学習に基づく多重変異コードを設計しました。ゲノム編集技術を用いて変異導入した結果,高生産株が得られました。さらに量子化学計算により変異導入箇所はRNAPの内部アミノ酸残基とmRNAの強い相互作用が示され,今後の変異設計に利用できる新知見が得られました。これらの成果は令和3年1月20日、日本農芸化学会英文誌Biosci. Biotechnol. Biochem.に掲載されました。本研究成果はウイルス感染症の治療薬として期待されながら社会的にまったく利用されていない核酸系抗生物質の実装化に導く重要な起点になると期待されます。
◆研究者からのひとこと
「抗生物質はウイルスには効かない。」と世間一般には言われていますが,ウイルスの増殖を抑え込む抗生物質の報告が多数あります。これら核酸系抗生物質はウイルスが特異的に持つ代謝システムや酵素反応を阻害する選択毒性を発揮します。私は平成5年に本学農学部助手に着任して以来,核酸系抗生物質の増産研究に取り組んできました。核酸系は突然変異株の選抜を繰り返す通常の微生物育種では増産が困難でしたが,本研究により転写装置の改変という新しい手法を開拓しました。眠れる宝の山を社会的に活用することを本学におけるSDGs課題として取り組んでいます。
■発表内容
<現状>
抗生物質の約7割が放線菌が生産する発酵産物であり,放線菌は産業的にも重要な微生物です。放線菌のゲノム情報が続々と解読されて公開され,βラクタム系やマクロライド系など主要な抗生物質であれば生合成遺伝子群をゲノム情報の中に同定することができます。しかし核酸系抗生物質は検索可能な相同配列が見つかっておらずゲノム情報から生合成遺伝子群を同定することは困難です。しかし生合成遺伝子が未同定でも転写装置RNAPの効率を改善すれば遺伝子発現はアップするという考え方も提案され実践的に検証されてきました。
<研究成果の内容>
Streptomyces incarnatus NRRL8089のシネフンギン生産能を強化するために,まず初めにゲノム上の RNAポリメラーゼ(RNAP)をコードする遺伝子を任意に改変するゲノム編集技術を開発しました。この放線菌は形質転換が難しい微生物でしたが接合伝達(注5)によって大腸菌から遺伝子を送り込み,相同組換えにより転写活性化に寄与するD447,S453,H457,およびR460の4残基を自在に書き換える方法を確立しました(特許6139139 号)。つぎに様々な抗生物質生産の増産効果が報告されていたH457X変異効果の文献値を機械学習Sparse解析によりアミノ酸ビックデータAAIndexから高い相関性をもつパラメータを抽出しました。その結果、H457R/Y/Fが高い増産効果を持つ可能性が示されました。H457R変異を採用したdsRC株はシネフンギン生産を3倍に高めました。RNAP/dsDNA/ mRNA複合体構造の中で変異導入の標的となる4残基はmRNA鎖と相互作用できる位置にありました。密度汎関数に基づくマリケン電荷の計算により,これらの4残基は分子複合体内部においてmRNAと直接接触しており転写装置のブレーキのような役割を果たしていると示唆されました。
Streptomyces incarnatus
RNAP/dsDNA/ mRNA複合体
抗ウイルス活性物質 シネフンギン
変異導入箇所D447, S453, H457, R460とmRNA
<社会的な意義>
本研究成果は,抗ウイルス剤だけでなく抗がん剤,抗真菌剤,抗原虫剤としても有用な他の核酸系抗生物質の増産にも適用可能な生物生産技術です。今後,変異導入効果を機械学習で精錬して有効な多重変異コードを算出して世界の医療現場に新たな抗ウイルス抗生物質を提供できるように研究開発を進めていきます。
■論文情報等
論文名: Multiple mutations in RNA polymerase β-subunit gene (rpoB) in Streptomyces incarnatus NRRL8089 enhance production of antiviral antibiotic sinefungin: modeling rif cluster region by density functional theory
邦 題 名: Streptomyces incarnatus NRRL8089のRNAポリメラーゼβサブユニット遺伝子rpoBの複数の変異は,抗ウイルス抗生物質sinefunginの産生を増強します:密度汎関数理論によるrifクラスター領域のモデリング
掲載誌: Bioscience, Biotechnology & Biochemistry (Oxford University Press出版)
著者: Saori Ogawa, Hitomi Shimidzu, Koji Fukuda, Naoki Tsunekawa1, Toshiyuki Hirano, Fumitoshi Sato, Kei Yura, Tomohisa Hasunuma, Kozo Ochi, Michio Yamamoto, Wataru Sakamoto, Kentaro Hashimoto, Hiroyuki Ogata, Tadayoshi Kanao, Michiko Nemoto, Kenji Inagaki, and Takashi Tamura
DOI: https://doi.org/10.1093/bbb/zbab011
発表論文はこちらからご確認できます。
https://academic.oup.com/bbb/advance-article/doi/10.1093/bbb/zbab011/6105261
■研究資金
本研究は,両備檉園記念財団(平成22年度)および科学技術振興財団(JST)「研究成果最適展開支援事業」(A-STEP【FS】ステージ探索タイプ・AS221Z03753E, AS231Z01635G, AS242Z00693,研究代表:田村 隆)の支援を受けて実施しました。
■関連出願特許
名 称:変異型RNAポリメラーゼβ-サブユニット遺伝子
出願番号:特願 2013-003150号
出 願 日:2013年1月11 日
登 録:6139139 号 2017年5 月12 日
出 願 人:国立大学法人岡山大学
■補足・用語説明
1) 核酸系抗生物質
放線菌が生産する抗生物質の中で,核酸と類似した構造をもつ抗生物質の総称。マクロライド系,ペプチド系ほど医薬品として利用されてはいないが,レトロウイルス,マラリア原虫などに効くものが多い。
2) Sparse解析
限られた実験データに対して大量のパラメータセットを参照して,実験値と相関をもつデータセットを探索する機械学習。20種類のアミノ酸の物理化学パラメータセットAAIndexは,アミノ酸残基の疎水性,局在性,親水性などの定量的パラメータである。RNAPに導入した変異残基がもたらす増産効果をAAIndexとの相関係数を算出しながら有用なIndexを探索した。
3) シネフンギン
放線菌Streptomyces incarnatusが生産する核酸系抗生物質。RNAウイルスの増殖に必須のRNAメチル化修飾を強く阻害する。メチル化を阻害されるとRNA分子は分解されるのでウイルスは細胞内で増殖することができなくなる。
4) RNAポリメラーゼ
RNAポリメラーゼは,遺伝子発現の中でDNAからmRNAへの転写の過程を触媒する。RNAポリメラーゼのβサブユニットをコードする遺伝子がrpoBである。
5) 接合伝達
多くの放線菌は,外来遺伝子を受け入れる能力が乏しく,rpoB改変を検討する上で大きな障壁になる。接合伝達は,大腸菌細胞から放線菌に改変遺伝子を送り込む方法でこの問題を克服する上で有効な手段となる。
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院環境生命科学学域(農)
教授 田村 隆
(電話番号)086-251-8293 (FAX番号)086-251-8388
(2021/04/26 15:35)
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