医学生のフィールド

夢中になれることをとことんやってみる! 順天堂大学循環器内科 南野徹教授から情熱メッセージ

 血管・細胞老化の研究で世界が認める順天堂大学循環器内科の南野徹教授。最近の研究では、老化した血管・細胞の除去で健康寿命の延伸につながることを明らかにした。生活習慣病予防への期待が高まっている。長年にわたる研究の裏には苦労の連続がある。学生時代をどのように過ごし、やりたいことをどう実現していったのか。医学生2人が質問をぶつけた。

(聞き手:聖マリアンナ医科大学2年 石橋賢人、順天堂大学医学部6年 吉富櫻嘉)

南野先生に学生2人がインタビュー

 ―南野先生は老化という大変興味深いテーマの研究をされていますが、研究しようと思ったきっかけは何でしょうか。

 南野 私の両親は医師ではありませんが、祖父や叔父が開業医をしていました。私の中の医師像はもともと開業医でした。医学部卒業後、研修医時代に拡張型心筋症という心臓の筋肉が壊れる病気に兄弟そろってかかっている患者さんを診る機会がありました。明らかに遺伝している、その遺伝子を解明してみたいと思ったのがきっかけで、研究に興味を持つようになりました。実際、最初に行ったのは動脈硬化の研究でしたが、その成果で学位を取得後、いろいろ勉強して心血管系の老化研究をライフワークにしようと考えて留学しました。留学中にはあまり成果が上がらなかったので、帰国後は臨床に戻りましたが、日々の臨床の中で多くの未解決点があり、その解決のためには基礎的な研究が必要であることを改めて感じる毎日でした。その後、運よく留学中の心血管系の老化研究が論文化されたのをきっかけに大学へ戻り、臨床と研究に携わるようになりました。

 ◇臨床と研究のバランス

 ―臨床と研究を両立されていますが、大変ではないですか。

 南野 研究は概して厳しいものです。特に、学位を取る時の研究はうまくいかないことが多くて、全然進まないですね。長い時間を費やした実験が最後のステップで失敗したり、あるいは成功したけれど結果が自分の考えていたことと全然違ったり。気が付いたら、半年間何も進んでないということも結構ありました。私たちのように臨床から研究に就いた人間にとっては、極めてつらいことばかりです。

 と言うのは、臨床の場合は数日単位で患者さんがよくなったり悪くなったりと、ダイナミズムがあり、多くの場合はよくなって感謝される。実際は、私たちが治しているというよりは患者さん自身が治っていて、それをアシストしているだけということも多い。それでも、よくなることでモチベーションが保てます。

 研究の場合は、半年間全く進まなかったらモチベーションが下がる一方です。けれども、それを乗り越えると、乗り越えた人にしかわからない風景が見えてきます。違う考え方や論理性が身に着いて、それが最終的には患者さんを診るときの深い思慮となります。

 研究だけやっていると煮詰まってしまうし、かといって臨床だけだと新しい視点を求めなくなったりもするので、両方やることで新しいものを求めつつ、それをベンチに持っていって試したり、その結果をまた臨床に戻すことでバランスが保てます。

 ◇医者の人生50年で考える

 ―臨床に主軸を置く場合、研究との両立で臨床に遅れが出るようなことはありませんか。

 南野 私自身は最初の5、6年はいわゆるレジデントや臨床医をやって7年目ぐらいから3年間、東大で学位をとるための研究をし、そのあと3年間はボストンに留学していました。つまり、計6年間は心臓カテーテル手技を全くやらなかったわけです。7年目に戻ってきた時にいきなり心臓カテーテルの数をこなせる一般病院で臨床医として働くことになりましたが、それはそれで大変楽しかったです。もちろん6年間、臨床から離れていたので手技は落ちていましたが、研修医や自分より年下の先生にカテーテルの操作のリマインドをしてもらったりしました。もう1回学び直そうという経験は、新たに教わることもあり、謙虚にもなれます。

 医者の人生は結局、短くても50年。50年のうちの数年間、そこから外れてちょっと出遅れたといっても、50年のスパンで自分の人生を考えると、最終的には全然問題なかったです。たとえ下手でも、習えばよいだけで、いくらでもすぐキャッチアップできます。逆にプライドを捨てて、年下の先生に教わることに抵抗がなくなります。それがかえってよい経験になるかなって。先輩が必ず偉いわけじゃなくて、年下のうまい人に習えばよいわけだから。

 ―週の大半を臨床に費やす中で、どのようにして研究の時間をつくるのでしょうか。

 南野 自分が手を動かして研究をするというのは、多分、大半の人が大学院からポスドク時代だと思います。大学院時代の4年間はがっちり研究にフォーカスして、時間を使った方がよい。いわゆる博士をとった後の自分のキャリアパスでは、例えば、自分のテーマを研究してくれる大学院生を指導するというように、少しずつ重さが変わります。昼間は診療をやって、夕方から夜にかけて大学院の学生たちとディスカッションするという時間の使い方ができます。全部自分でやるというふうに思わなければ、並行して進めることは可能です。

インタビューに応じる南野教授

 ◇回り道も面白い

 ―学生のうちにやっておいた方がよいことってありますか。

 南野 国家試験対策のための勉強もよいのですが、前提として医学の勉強はしっかりやる。そして、医学以外のことでもよいので、本当に自分が興味を持ったことを深掘りしたり、勉強したりするのがいいのではないかな。私自身は学生時代、医学しか勉強してこなくて失敗したと思っているので。

 実は、学生時代に研究しようなんて一度も思ったことがなかったのです。学生時代から自分のゴールを設定してそこに向かっていくためにはどうしたらいいだろうっていう風に逆算して考える必要はむしろなくて、学生時代にはすごく興味を持ったことにひたすら深く入り込む方がいい。私が学生時代に医学以外で熱中したのは、起業。それが今どう生かされているかよく分からないけれど、最初からきれいな目標に向かっていくよりは、回り道をしてもいろいろな経験をした方が面白いと思います。

 もし、研究がやりたければ、私の研究室に来て、実際にウエットな研究をしてみてもよいだろうし、ベンチャー企業の人と議論してみたりするのも面白いと思います。興味のあるイベントに参加してみて、人のネットワークを広げるのでもいい。自分だけで調べたりするのは限界があるから、基本はまず行動して、どんどん経験を積んでいく。

 いろいろな人と友達になる、知り合いを増やす、情報を得る。人と人でつながっていかないと進まないかなと思います。もちろん基本的な知識は必要ですが、やっぱリアルにつながっていかないと自分が知りたいこととかやりたいことにたどり着けない。アクティブに行動してネットワークを広げていくと、きっと得るものがあると思います。

 ◇留学は多様性感じるチャンス

 ―目標はどのように立てればよいですか。

 南野 一番やりたいことをどんどんやってみて、数年後、立ち止まって考える。そうすると、考えが変わっているので、2、3年の短いスパンで目標を立てるのでいいんじゃないかな。学生時代は部活でもボランティアでも夢中になれることならなんでもよいと思います。

 医師になってからも、あまり自分を抑えずに進んでいく方が人生は楽しい。時々お金が稼げなくなる時期とか、あるいは給料が安くなったりする時期もあるかもしれないけど、日本の医師免許を持っていれば一家4人ぐらいは何とかなるのだから、自信を持ってよいのではないかと。医学部を卒業した後、開業しようと思っていた人が研究者になったり、あるいは絶対に研究に行くと思っていた人が離島で診療をやりたくなったりというのはあり、だと思う。

 ―留学はやっぱり行った方がよいですか。留学先はどうやって決めればよいですか。

 南野 留学は海外の技術を学んだり、あるいは研究して何か成果をあげたりすることがもちろん重要な目的ですだけど、もっと重要なのは、留学先が移民の多い米国や欧州であれば、多様性を肌で感じるトレーニングができることです。さまざまな背景を持つ人たちとの交流を面白がれるセンス、これを磨くことができるのが大きい。国によっては日本以上に貧富の差が激しい中で、それなりにみんな楽しんでやっている。FacebookのようなS N Sも米国からだし、新型コロナのワクチンも結局、米国でつくられている。米国は異質な分子を排除しない社会だからこそ、新しいものをつくることができるんだと思う。日本の場合は突拍子もない企画は真っ先につぶされて、排除されたりすることが多いから。多様な文化や考え方を評価するためにぜひ留学してほしい。

 留学先に関しては、ある程度名前の知られている大学に留学するのがよいと個人的には思っています。ハーバード、オックスフォードやスタンフォードのような一流の大学は世界中から一流の人が集まっていて学ぶべきことも多く、グローバルな感覚が身に付きやすいという意味でお薦めします。

 そのような一流の大学でも、かなわないと思うほど賢い人は数パーセントで、残りは普通の人です。それを知った上で世界のレベルを実感することも重要です。もし、明確な目的もなく、何となく留学したいという程度の気持ちなら、メジャーな大学の方が親も送り出しやすいし、自分も行きやすい。将来、仲間も結構増えます。

 ◇留学時期はポスドクが一番効果的

 ―留学するタイミングはいつ頃がよいとかありますか。

 南野 行きたいと思ったらいつでもよいのだけど、何も知らずに留学すると手習いだけで数年かかるから、日本で大学院を出た後、要するにポスドクとして行くのが一番効果的というか、自分に対してのインパクトがあります。年齢的には家族がいて家族と一緒に行くというのが、いろんな意味で人生の鍛錬にもなってよいのではないかな。

 海外の大学院は、有名な大学ほど厳しいです。日本の場合、卒業は4年と決まっているけど、海外の場合は成果が出るまで卒業できないディフェンスという制度があって、指導教官の前で自分が4、5年かけてきた研究を披露して、認められないと卒業させてもらえません。かなりタフで、覚悟が必要です。給料はもちろん出ますが、ポスドクの給料が例えば400万だとしたら、PhDコース(博士号課程)の学生の給料は半分ぐらいなので、生活するには結構厳しい。奨学金制度を利用するとよいかもしれません。または日本で学位論文を書いてポスドクで海外のポジションが得られれば、相応の給料が出ます。そのパターンが多分、一番多いと思います。

 ―最後に、循環器内科に興味のある学生に向けてメッセージをお願いします。

 南野 循環器内科は、いわゆる内科的な治療から、カテーテルを使った狭心症不整脈の治療、弁膜症の治療、デバイスを用いた心不全の治療など、内科の中では比較的侵襲的だけど、外科と比べれば低侵襲の治療がここ10年ぐらいですごく発達してきました。診断法も急速に発達しています。例えば、MRAとかCTとかエコーのようなモダリティを組み合わせてカテーテルをせずに診断できます。他の分野に比べて、薬の開発が進んでいます。数年前までは世界で売れている治療薬トップテンの半分ぐらいは、循環器薬でした。患者さんが多いからマーケットが大きく、新しい技術開発に膨大な資金が投入されるため、今後も循環器はさまざまな分野で飛躍する可能性が高いです。もし、循環器の中でなりたいエキスパートが見つかれば大変面白いと思います。


 南野 徹(みなみの・とおる) 順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授。1989年千葉大医学部卒業、千葉大医学部内科研修医などを経て、97年医学博士号取得(東京大学)。同年ハーバード大医学部 リサーチフェロー。2001年千葉大学大学院医学研究院 循環病態医科学助教、12年新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科教授。18年日本学術振興会学術システム研究センター研究員(兼任)、19年新潟大学医歯学総合病院 副病院長(兼任)


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