狭心症〔きょうしんしょう〕

 冠動脈(冠状動脈)の内腔(ないくう)が狭くなったために、心臓がはたらくのに必要なだけの血液を送ることができなくなると、おもに前胸部を中心にした重苦しい痛みとして感じるようになります。これが狭心症です。
 狭心症の多くは階段や坂道、急ぎ足など心臓に負担がかかる動作をおこなったときに起こる労作(ろうさ)性狭心症です。原因は動脈硬化により冠動脈の内腔が狭くなっているためです。ある程度狭くても完全につまっていないかぎり、安静時に症状は出ません。しかし、さきにあげた動作中は、心臓はより多くの血液を体中に送り出すため活発に動くので、自身の筋肉にも安静時の何倍もの血液の供給が必要となります。冠動脈が狭くなっているとそれ以上に血流をふやすことができず、このため血液不足の症状である狭心症が起こるのです。症状は一時的であり、通常はしばらく安静にしていると心臓の動きももとに戻るので、痛みも消えていきます。
 狭心症には睡眠中や早朝の安静時など、むしろ心臓にほとんど負担がかかっていないときに起こる安静時狭心症もあります。原因は冠動脈そのものがなんらかの理由でけいれんして一時的に狭くなり、血液の流れをとめてしまうためで、冠攣縮(かんれんしゅく)性狭心症ともいわれます。精神的なストレスや疲労が続いたときに起こりやすい人もいますが、まったく理由なく起こることも少なくありません。けいれんがおさまったときの冠動脈はほとんど正常であり、日常の動作や運動では症状が出ないのふつうです。


[症状]
 狭心症の症状は、一般的に胸の中央から全体に広がるような漠然とした圧迫感や違和感であらわれます。痛む場所は、指さすことができるような限られた範囲の痛みではなく、漠然とした範囲で感じます。チクチクする胸痛は、まず狭心症とは違います。呼吸や体位を変えることで増強するような痛みも狭心症の可能性は低くなります。狭心痛はときに胸の痛み以外のこともあります。具体的には、くび、肩(肩こりのような)、ひじ、あるいは背なか、あご、奥歯の痛みとして感じることや、息苦しさや胃のもたれる感じ、ひじあるいは手が重くだるい症状などがあります。胸痛
 労作性狭心症および安静時に起こる冠攣縮性狭心症のいずれも、ふつうは2~3分か、せいぜい5分ぐらいでおさまりますが、ときには20~30分と長く続くこともあります。
 疑わしい症状に気づいたら、たとえおさまっていても早めに医師に相談することをおすすめします。また軽い症状であってもくり返し起こったり、強い痛みが続き、冷や汗や気分不良を伴うようなときは、心筋梗塞のおそれもありますので、たとえ夜間や休日でも救急で専門医療機関を受診する必要があります。
 下表は、労作狭心症の重症度を自覚症状にもとづいて4段階に分けて示したもので、専門医のなかではよく用いられる分類です。狭心症の重症度を知っておくことは、病院を受診する際の緊急度や、その後の治療方針を決めるときにとても役に立ちます。

●カナダ心臓血管協会(CCS)のの狭心症重症度分類
(CCS:Canadian Cardiovascular Society)
■日常生活では狭心症がおこらないもの
 たとえば歩行、階段を上がるなどでは起こらない
 しかし、急激な長時間にわたる仕事や運動では狭心症が起こりうる
■日常生活にわずかに制限があるもの
 早足歩行や急いで階段を上がる、坂道をのぼる、または食後や寒冷時、
 感情的なストレスを受けたときに狭心症が出現する
■日常生活で狭心症が出現するために制限があるもの
 安静時には狭心症はないが、軽労作で狭心症が出現する
■安静時にも狭心症が出現するため日常生活ができない状態


□無症候性心筋虚血
 冠動脈の動脈硬化が進み、心筋細胞への血流が低下する“心筋虚血”が起こっていても、狭心症の自覚症状が出ないことがあります。この状態を無症候性心筋虚血といいます。特に高齢者や糖尿病のある人にみられることが多く、心電図や核医学検査(心筋シンチグラフィ)などの検査によって異常がわかり、はじめて発見されることになります。自覚症状がないため、診断や治療などへの対応が遅れることになるので、日ごろから心電図を含めた健診を定期的に受けておくことが大切です。

[診断]
 狭心症を診断するための検査はいろいろありますが、狭心症の症状の多くは一時的であり、症状が起こっていないときには心電図をはじめとする種々の検査でも異常を見つけることがむずかしくなります。狭心症を診断するためになによりも大切なのは、受診時にまず自分の症状をできるだけくわしく医師に伝えることです。病院では医師がいろいろ質問(問診)しますので、あらかじめ準備してまとめておくと、診断に役立ちます。胸痛

[検査]
□心電図
 病院で症状がないときに検査した心電図が正常であっても、狭心症でないとはいえません。労作性の狭心症が疑われる場合には、トレッドミル試験、エルゴメーター試験などの運動負荷心電図検査をおこないます。また、夜間の睡眠中や早朝に起こる狭心症を診断するには24時間の心電図が記録できるホルター心電図が役に立ちます。心電図検査

□核医学検査(負荷心筋シンチグラフィ)
 運動負荷や薬物負荷をかけながら、微量の放射性医薬品(アイソトープ)を注射して心筋虚血の有無を診断する方法です。負荷をかけたときに心筋虚血を起こしている部分では、健常な部分とくらべて放射性医薬品の集まりがとぼしくなる、という現象を画像で確認することにより診断します。心筋虚血があるかどうかを判断するだけでなく、そのひろがりの範囲や心筋障害の程度などもわかります。核医学検査

□冠動脈CT検査
 造影剤を点滴してCT検査をおこない、冠動脈全体の画像をくわしく見る方法です。狭心症の原因となる冠動脈の狭窄(動脈硬化により血管の中が狭くなる)がどの位置にあり、どの程度狭くなっているのか、また1カ所だけなのか何カ所にもあるのかなど、動脈硬化の重症度を知ることができます。カテーテルを用いておこなう冠動脈造影検査より負担は小さく、外来で検査することが可能ですが、やはりX線と造影剤を使用しますので、妊娠可能年齢の女性や、造影剤(ヨード)アレルギーのある人、腎機能の低下している人などには不向きです。CT・MRI検査

□冠動脈造影検査
 心臓カテーテル検査の一つで、手くびや足の付け根の動脈からカテーテル(直径2mm前後の管)を入れて冠動脈(冠状動脈)の入り口まで到達させ、造影剤を直接左右の冠動脈に注入してX線撮影をする検査です。狭心症の確定診断、重症度の評価、治療方針の最終決定ができます。検査器具の進歩により、近年では冠動脈の中の動脈硬化の性状を評価するなど詳細な検査もできるようになりました。また冠攣縮性狭心症が疑われる場合には、診断を確定するために、血管の収縮を誘発する特殊な薬剤を直接冠動脈内に注入する検査をおこないます。心臓カテーテル検査

[治療]
 狭心症の治療の目標は、まず胸痛発作が起こらないように予防して、これまでどおりの日常生活を支障なく過ごせるようにすることです。さらに狭心症の悪化により心筋梗塞を起こして死亡する危険性を、できるだけ減らすことを目指します。
 治療には大別して、薬の服用を中心とした薬物療法と、経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパス術などの非薬物療法があります。いずれの治療法を選択した場合でも、動脈硬化の危険因子を修正するための生活習慣の改善は、並行して実践しなければなりません。動脈硬化

□薬物療法
 狭心症の診断で通院されている人には、症状が出たときに使用するための薬と、症状が起こらないように予防するための薬が処方されます。

・狭心症の発作時
 労作性狭心症あるいは冠攣縮性狭心症のどちらも、症状が出たときには即効性のある硝酸薬(ニトログリセリン舌下錠やスプレー製剤など)を使用します。使用すると冠動脈がすばやく拡張し、通常は2~3分で効果がみられます。数分しても効果がない場合は2錠目(スプレーでは2回目)まで使用します。それでも効果がなければ狭心症ではない可能性も考えられますが、症状が強いときや、さらに悪化するような場合は心筋梗塞を起こしている可能性がありますので、救急車の要請を考えなくてはいけません。
 ニトログリセリンは冠動脈以外の血管をひろげる作用もありますので、ときに頭痛がしたり血圧が下がって気分がわるくなることがあります。その作用は20~30分くらいで消えますので、通常は横になり安静にしていれば改善します。
 ニトログリセリンを処方されている人は、いつでも使用できるように常に身近に携帯し、また使用期限が記載されているので期限切れに注意してください。

・狭心症の予防
 狭心症を予防するための薬は、即効性はないが効果の持続が長い薬剤が用いられます。おもに冠動脈を拡張させる作用のある薬剤として「持続型硝酸薬」と「カルシウム拮抗薬」、また心筋の活動量(酸素需要量といいます)を抑える薬剤として「ベータ(β)遮断薬」があり、それぞれ狭心症のタイプにより使い分けられます。労作性狭心症の場合は通常「持続型硝酸薬」や「ベータ(β)遮断薬」が、冠攣縮性狭心症の場合は「カルシウム拮抗薬」や「持続型硝酸薬」が選択されます。
 そのほかに、冠動脈内に血栓が形成されるのを予防する抗血小板薬(アスピリンなど)や、脂質異常症を改善し動脈硬化の進行を抑制する薬(スタチン)などがよく併用されます。処方された薬については、医師や薬剤師にその効能やよくある副作用について確認しておきましょう。

□非薬物療法
 薬物療法が効かない場合、あるいは薬物療法だけでは長期的な予後(病気の経過についての見通し)が不良と考えられる場合には非薬物療法を選択します。これには「経皮的冠動脈形成術」と「冠動脈バイパス術」があります。

・経皮的冠動脈形成術(PCI:percutaneous coronary intervention)
 動脈硬化により冠動脈の内腔が狭くなった部分(狭窄)をバルーンカテーテルで押しひろげ、心筋への十分な血流を確保する治療法で、カテーテル治療の一種です。以前はひろげた部分がふたたび狭くなったり(再狭窄)、つまってしまうこと(閉塞)が問題になっていましたが、ひろげたあとの血管内に金属製ステント(網目状の細い筒)を置いたり、さらに再狭窄を防ぐ薬剤が溶け出る「薬剤溶出ステント」の開発により、長期にわたる治療効果が劇的に改善されました。


 入院は短期間ですみますが、細い血管内に金属が残るため、血栓形成を防ぐための抗血小板薬を継続して服用することが必要になります。最近ではステントを用いない「薬剤溶出バルーン」や、最終的に吸収されてなくなってしまう素材でできた「生体吸収型ステント」も開発されています。

・冠動脈バイパス術(CABG:coronary artery bypass graft)
 重症の冠動脈狭窄や閉塞が何カ所にも存在したり心臓の機能が低下している場合、あるいはステントによる治療を受けたが十分な効果が得られなかったときに選択される外科的治療法です。内胸(ないきょう)動脈や伏在(ふくざい)静脈という自分自身の血管を利用して、冠動脈の狭窄部を超えた先の血管に直接つないで人工的なバイパスをつくります。通常は1回の手術で何本もの冠動脈にバイパスをつくるので、心筋全体に良好な血流を確保することができます。全身麻酔で手術しますが、現在は心臓の拍動をとめずに動いたままでおこなう「オフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)」が主流です。人工心肺を使用しないので患者の負荷が少なく、術後の回復も早くなります。


 多くの専門病院では、カテーテル治療はおもに循環器内科の専門医が担当し、冠動脈バイパス術は心臓血管外科医がおこないます。どちらの治療法を選択するかは、病気の重症度を含めた医学的な諸条件や各施設の診療体制などをもとに、内科医と外科医が共同で討議して提案することが望ましいとされています。治療を受ける際には各治療法の利点と課題を含めた説明を受け、よく了解したうえで、自分の希望も含めて選択することが大切です。
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