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東京都の新型コロナウイルスの新規感染者数が数千人に上り、地方でも感染が拡大している。背景には、感染力が非常に高いデルタ株の登場があるとされる。このため、専門医は「欧州で起きたような、感染者が短期間に急増する『感染爆発』が日本で起きている。抜本的な対策が早急に必要だ」と訴えている。
緊急事態宣言の対象地域拡大などで記者会見する菅義偉首相(左)と政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長=7月30日
◇期待できぬ人流抑制
「東京都と沖縄県に4回目の緊急事態宣言が発布されてから時間がたっても、期待されていた人流の抑制は限定的で、感染者数の増加が続いている。都の毎日の感染確認者が5千人を上回ったので、さすがに今後は、ショックを受けて行動を自制する人は出てくるだろう。それでも、東京五輪に加えて夏休みやお盆という人流を増やす要素があることを考えれば、現在のままで大幅な人流抑制は期待しにくい」
東邦大学医学部教授で政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の委員でもある舘田一博氏(感染症)は、今後も楽観できる要素はないと分析し、「都の新規感染確認者が1日8千人から1万人に達する事態もあり得る。感染力が強く、最初に確認されたインドで大流行を起こした変異株の『デルタ株』が主流になった。患者数は累積するので、治療を必要とする患者は大幅に増大する。現在でも、パンクしかけている医療現場の逼迫(ひっぱく)度合いは深刻だ」と指摘する。
◇40~50代の重症患者が増加
懸念の一つは、ワクチン接種の推進で高齢者の重症患者が減り、相対的に40~50代の重症患者が数と比率の両面で増大していることだ。舘田教授は「この世代は、ある程度体力があり、社会復帰のニーズも高い。臨床現場では、できる限りの治療を求められるし、医療側も最後までサービスを提供する」と話す。
このような状況では、患者1人が必要とする機材や人員などの医療資源はこれまでよりも増え、その分、医療現場の負担も大きくなる。第4波の大阪府などで起きかけた、必要な患者に必要な医療が提供できなくなる「医療崩壊」が起きる危険性が高まっている、と舘田教授は危惧する。
東京・浅草の仲見世通りを行き交う人たち=8月7日
◇都市封鎖「ソフト版」を
対策として、集客力が高い大規模商業施設やレジャー施設の一定期間の休業、大規模イベントの中止など、より踏み込んだ人流抑制が必要だ、と舘田教授は考えている。「これまでの経緯から、飲食業に、これ以上の負担を求めるのは現実的ではない。できれば日常生活に不可欠な店舗以外は休んでもらい、国民全体に可能な限りの外出自粛を求める、欧米のロックダウン(都市封鎖)の『ソフト版』はどうだろうか。期間を2週間前後に限れば、感染拡大の勢いは止められるだろうし、国民にも受け入れてもらえるのではないだろうか」と言う。
「将来的にはPCRなどによる感染の有無の検査と、ワクチン接種歴を確認できるワクチンパスポートを組み合わせて、行動範囲を拡大していくことも必要だろう。また、緊急事態宣言の対象も一気に全国に拡大することが選択肢になる」とみる。
閉会式で降ろされる五輪旗=8月8日、東京・国立競技場
◇医療者の悩み
当然、これらの措置を実施するには社会の理解が不可欠だ。この点について舘田教授は「政府から行動自粛などの感染対策を呼び掛ける強いメッセージを発信する必要があるが、十分にできなかった。五輪などでメッセージを相殺する動きも出たために、効果はとても十分ではない」と現状を評価する.その上で「五輪やパラリンピックの開催の可否を議論する立場ではないし、特にパラリンピックの選手には競技をしてもらいたい気持ちはある。しかし、一医療者としては、無観客開催が社会に与えるインパクトとメッセージは、感染対策に有効になることも否定し難い」と苦しい胸の内を明かした。(了)
(2021/08/10 15:00)
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