教えて!けいゆう先生

「紹介状」を受け取ったら「返書」を出す
あまり知られていない医療現場の情報共有 外科医・山本 健人

 前回のコラムで、医療現場における紹介状の役割について述べました。紹介状の目的は、医師同士、あるいは医療機関同士で、患者さんに関する情報の共有を行うことです。

 その点で言えば、紹介状は単なる「紹介のお手紙」ではなく、「申し送り資料」に近い、というのは前回、書いた通りです。

紹介状を受け取った医師は「返書」という形で紹介元に定期的に情報提供を行います【時事通信社】

紹介状を受け取った医師は「返書」という形で紹介元に定期的に情報提供を行います【時事通信社】

 さて、紹介状について、あまり知られていないことがもう一つあります。

 「返書」の存在です。

 ◆紹介元へ定期的に情報提供

 紹介状を受け取った医師は、それに対して、返書を出すのが一般的です。

 「手紙をもらったから返事を書く」という、単なる習慣ではありません。

 返書もまた、患者さんに関する情報をやり取りする上で、重要なツールになっているのです。

 例えば、ある医療機関で患者さんを診療した医師が、専門病院で精密検査を受けた方がいいと判断し、紹介状を書いたとしましょう。

 紹介状を受け取った専門病院の医師は、紹介状を読むことによって、患者さんの病状、それまでに行われた検査や治療、その結果などを詳細に知ることができます。これが紹介状の役割です。

 さて、紹介状をもらった医師は、その内容を踏まえて、自分の病院で検査や治療を開始することになります。この後、「返書」という形で紹介元に定期的に情報提供を行うのが一般的です。

 返書では主に、(1)どのような検査を行い、どのような診断に至ったか(2)どのような治療を行い、その後どのような経過をたどったか――が記載されます。

 なぜ、このような情報提供が必要なのでしょうか?

 ◆良い連携こそが患者の利益に

 患者さんを他の医療機関に紹介した医師としては、自分の担当した患者さんが紹介先でどのような治療を受けているのかを知りたいと考えます。

 専門病院で治療を受けた後、患者さんが自分の医療機関に戻って来ることが多いためです。再び診療を行う以上、それまでの治療経過を詳細に把握しておく必要があるのです。

 また、紹介元の医師は、専門病院を受診した方がいいと判断した自分の見立てが適切であったか、精密検査の結果、どのような病気だと診断されたのか、自分の紹介のタイミングは妥当であったのか、についても、知っておきたいと考えます。

 こうしたフィードバックを行うことで、他の医療機関と、より良い連携ができるようになり、患者さんの利益につながるからです。

 紹介状と違い、返書は一般的に患者さんに直接手渡されず、医療機関同士の郵送でやりとりされています。よって、返書をやりとりしていることは、意外に知られていません。

 「かかりつけの先生が、紹介先の病院で受けた治療を全て知ってくれていた」と、驚かれることもあります。

 今や、医療は細分化し、一つの医療機関で全ての治療が完結する病気は多くありません。

 かかりつけ医から都市部の大規模病院まで、さまざまな医療機関が連携することで、患者さんにより良い医療が提供できます。

 紹介状や、その返書は、こうした連携をスムーズにする重要なツールなのです。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者と病院をうまく使い倒す34の心得」(KADOKAWA)、「がんと癌は違います 知っているようで知らない医学の言葉55 (幻冬舎)」など多数。



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