治療・予防 2024/12/23 05:00
薬物療法が大きく進歩
~ぼうこうなどの尿路上皮がん(虎の門病院 三浦裕司部長)~
体内の特定の酵素の不足でさまざまな症状が表れるムコ多糖症Ⅱ型。従来の治療では効果がなかった「発達の遅れ」に有効性が期待される新薬が世界に先駆けて国内で発売された。不足する酵素を脳内に直接投与するこの新薬を発案した国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)臨床検査部の奥山虎之統括部長に話を聞いた。
▽患者数168人
ムコ多糖は体を構成する成分の一つで、常に新陳代謝されている。だが、分解を担う酵素が生まれつき不足・欠損していると、古いムコ多糖がさまざまな臓器にたまり、障害を引き起こす。
ムコ多糖症Ⅱ型は男児に発症し、国内患者数は168人と報告されている。症状は、知的発達や言葉の遅れ、骨の変形、肝臓の肥大など。症状は年単位でゆっくり進行する。重症の場合、10歳前後で呼吸器や心臓が侵されて亡くなることもある。
治療の主体は、分解する酵素を点滴で補充する酵素補充療法。ムコ多糖の蓄積を防ぎ、10年以上の延命が期待できる。ただ、発達の停滞や退行には効果が期待できない。脳の血管内部は不要な物質が漏れ出さない構造になっており、補充する酵素が脳に移行できないからだ。
▽脳内に薬を直接投与
奥山統括部長は酵素を直接脳に投与する方法を考案。専用の製剤(商品名・ヒュンタラーゼ)が今年4月に発売された。抗がん剤投与などに用いるシリコン製装置を頭皮の下に埋め込み、そこから注入する。
重症患者6人(月齢23~64カ月)を対象に行った臨床試験では、従来の酵素補充療法と併用してヒュンタラーゼを4週間に1回投与すると、脳のムコ多糖蓄積を表す数値が減少し、3年後も維持された。脳への直接投与で懸念される細菌感染は報告されなかった。
3歳までに投与を開始した3人に発達の遅れはなかった。ただ、新薬は「進んでしまった『発達の遅れ』を元に戻すのは難しいため、早期の投与が望ましい」と奥山統括部長。
ただし、「3歳以降に治療を始めた場合でも落ち着きが出てきた、検査に協力的になったという声を聞くので、投与する価値はあります」と話す。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/11/10 05:00)
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