2024/11/05 16:00
オイシックス・ラ・大地、東京慈恵医科大と共同臨床研究を開始
がん治療の化学療法時における、食事支援サービスの効果を研究
【背景】
尿路結石は、「世界三大疼痛」と呼ばれるほど強烈な背部痛を引き起こす疾患であり、その症状は患者の職業や日常生活に大きな影響を与える。尿路結石は腎臓で形成され、それが下降すると尿管(尿の通り道)が詰まることで痛みを引き起こす疾患である。また適切な処置を行わないと、腎不全や尿路感染症の悪化を引き起こし、命にも関わる疾患である。
実は、宇宙飛行士が尿路結石ができやすい職業であることが分かっている。これは微小重力によって骨への荷重負荷が低下し、骨から溶け出したカルシウムが尿に流れ込んで「尿路結石のリスク」が高まるという機序である。宇宙飛行における結石の疼痛発作は、ミッションの失敗だけでなく、多くの人命にも関わる大事故につながるおそれがあることから、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とアメリカ航空宇宙局(NASA)は宇宙空間での尿路結石の予防法について長年研究を重ねてきた。
尿路結石は、食生活の欧米化によってこの50年間に3倍にも患者数が増え、わが国では現在約10%もの人が罹患する国民病ともいえる疾患になり、多くの人々を苦しめている。その治療法は、サイズが小さい場合は体外への自然排石を待つが、排石できないほどサイズが大きい場合は衝撃波やレーザーを用いた破砕手術を行う。しかし一度身体から結石が取り除かれても、50-60%が10年以内に再発するため、砕石手術だけでは再発を防ぐことはできない。現在、結石のもっとも有効な再発予防法は「水分の多量摂取」であり、これは約2000年前のヒポクラテスの時代から全く変わっていない。
【研究の成果】
名古屋市立大学大学院医学研究科の岡田淳志准教授(腎・泌尿器科学分野)は、2008年に宇宙空間(微小重力環境)をモデル化した長期臥床(寝たきり状態)が尿路結石の形成を促進し、骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤(以下、ビスホスホネート製剤)が結石形成を予防できることを報告した。JAXA・NASAと共同で行った本研究では、2009年以降に国際宇宙ステーションに約6ヶ月搭乗した宇宙飛行士に宇宙飛行の間、抵抗運動機器(ARED)を用いた運動とビスホスホネート製剤の服用を行い、宇宙飛行のあいだの尿中の結石リスク因子と骨吸収マーカーの変化を調べた。その結果、ビスホスホネート製剤を服用しなかった10名の宇宙飛行士は、宇宙飛行の開始ともに骨吸収マーカー(NTX, HP)、カルシウム・シュウ酸・尿酸の尿中排泄が増加したのに対し、ビスホスホネート製剤を服用した7名の宇宙飛行士はそれらの排泄がいずれも低下することを見いだした。
尿路結石は、動脈硬化を悪化させるようなメタボリックシンドローム(高血圧、糖尿病、高脂血症)や高尿酸血症だけでなく、閉経期やステロイド治療薬による骨粗鬆症でも再発率が増加することが分かっている。しかし、その再発予防方法として最も有効なのは「多量の飲水」であり、これは2000年以上前のヒポクラテスの時代から変わっておらず、尿路結石は増え続けている。
特に宇宙飛行士は、宇宙飛行の開始時には水分摂取を行う時間がなく、無重力によって体内の水分が頭部に移動するなどの宇宙空間特有の変化によって、尿量が一気に減少する。本研究でもビスホスホネート製剤の服用の有無に関わらず、宇宙飛行の開始とともに1日尿量が50-75%にまで減少した。このことは宇宙飛行士に尿路結石ができやすくなるひとつの要因であると考えられる。
また宇宙空間での骨密度の減少は、閉経期の女性の10倍のスピードで進むと言われる。本研究では、宇宙飛行士全員がAREDを用いた抵抗運動を行ったが、ビスホスホネート製剤を服用しなかった10名の飛行士は、宇宙飛行前と比べて尿中の骨吸収マーカーは2倍に、カルシウム排泄は1.5倍に増加した。また同時に尿路結石の原因となるシュウ酸・尿酸も1.1?1.4倍に増加を見せた。これに対してビスホスホネート製剤を服用した宇宙飛行士は、骨吸収マーカーは0.5?0.6倍まで低下し、カルシウム・シュウ酸・尿酸は0.6?0.8倍にまで低下した。
この成果から、宇宙飛行中の抵抗運動のみでは尿路結石の形成リスクを抑えることができないが、ビスホスホネート製剤の服用は宇宙飛行士の骨密度維持(Sibongaら, Bone 2019) と尿路結石予防の両者に有効であることが世界で初めて証明された。さらにこの成果は、寝たきりや閉経期の女性、膠原病や慢性関節リウマチなどでステロイド治療を行う患者が罹患する尿路結石にも応用可能であることを示すものである。
【研究のポイント】
〇1962年に米国の科学者らが宇宙空間(微小重力環境)で尿路結石のリスクを報告して、まもなく60年が過ぎようとしている。
〇微小重力環境では、骨吸収(骨の溶解)が進むため、尿中にカルシウムが排出されて結石が作られると考えられてきた。
〇同様のメカニズムで、女性の閉経期や、ステロイド治療、寝たきり患者で起こり、尿路結石ができやすくなる。
〇NASAとJAXAは、宇宙飛行士の抵抗運動や栄養管理で結石を予防することを試みてきたが、骨吸収の抑制による結石形成を抑える方法はこれまで開発されていない。
〇岡田准教授らのグループは、NASDA (宇宙開発事業団, JAXAの前身)との共同研究で、長期臥床試験を行い、ビスホスホネート製剤が結石を予防しうる可能性を報告してきた。(Okada A, et al. Int J Urol. 2008)
〇JAXAとNASAは、予防的にビスホスホネートを服用し、宇宙飛行士の骨密度維持と尿路結石予防を検証する共同研究を企画し、NASAチームは骨密度維持効果を、JAXAチームは尿路結石予防効果を解析した。NASAチームは宇宙での抵抗運動にビスホスホネートを併用すると宇宙飛行士の骨密度を維持できることを発表した(Sibongaら, Bone 2019)。
〇本研究では、国際宇宙ステーションに約6ヶ月搭乗した宇宙飛行士に、ビスホスホネート製剤を投与することで、骨の吸収だけでなく、尿中の複数の結石リスク因子が減少することを見いだした。
〇その中で、ビスホスホネート製剤を服用しなかった宇宙飛行士に、尿中の「カルシウム」だけでなく、骨基質たんぱくであるI型コラーゲンの分解産物「シュウ酸」「尿酸」の増加が認められた。
〇シュウ酸・尿酸は、カルシウムとならんだ尿路結石のリスク因子である。
〇これに対し、ビスホスホネートを服用した宇宙飛行士は、カルシウム、シュウ酸、尿酸の排泄も有意に減少し、尿路結石形成リスクが下がった。
〇本研究は、主任研究者 松本俊夫 (徳島大学 藤井節郎記念医科学センター)主導のもと、分担研究者、岡田淳志・安井孝周・郡健二郎 (名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野)、大島博 (宇宙航空研究開発機構(JAXA)), 磯村達也 (東京医科大学医学総合研究所)、古賀正 (聖マリアンナ医科大学 薬理学)、NASA研究者らによって行われた。
〇また、本研究はJAXAによる第5回ライフサイエンス公募に採択され、NASAとおこなった共同研究である。
【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】
〇本研究の意義は、宇宙飛行士の骨密度を維持することが尿路結石の予防につながることを示しただけでなく、地上においても骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤が閉経期女性やステロイドによる尿路結石形成に対する新たな治療法となる可能性を示したことである。
〇この発見は、尿路結石で苦しむ世界中の人々に新たな予防法を提供するものであり、「すべての人に健康と福祉を」とするSDGsの理念にも則り、尿路結石の新しい予防法として、ビスホスホネート製剤が使用できる社会をめざしたい。
【用語解説】
1 尿路結石
尿路(腎臓から尿道)に結石が生じる疾患。一生のうちに結石になる確率(生涯罹患率)は、2015年の調査では男性が7人に1人、女性が15人に1人であり、この50年間に3倍にまで増加した。またその再発率は10年間で50-60%であることから、新たな予防法の開発が期待されている。尿路結石の成分の80%以上をカルシウム結石 (シュウ酸カルシウム・リン酸カルシウム)が占める。
2 骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤
骨は骨芽細胞による「骨形成」と破骨細胞による「骨吸収」がバランスを取ることによって骨密度が一定に保たれる。長期間寝たきりの状態、閉経期における女性ホルモンの減少、ステロイドの投与によって、「骨吸収」が進んで「骨粗鬆症」が生じる。この「骨吸収」を抑制する薬がビスホスホネート製剤で、現在では骨粗鬆症治療薬の中心となっている。
【研究成果の概要】
名古屋市立大学大学院医学研究科の岡田淳志准教授(腎・泌尿器科学分野)らは、JAXA・NASAとの共同研究で、国際宇宙ステーションに長期間滞在する宇宙飛行士に骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤を投与し、尿中のリスク因子を抑えることで尿路結石を予防できる可能性を示した。
背景
長期間の宇宙飛行は尿路結石の形成リスクの増加につながる。尿路結石によって引き起こされる疼痛は、宇宙飛行士の活動の低下やミッションの失敗を引き起こす可能性がある。本研究では、国際宇宙ステーションに6ヶ月間滞在する宇宙飛行士を研究し、骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤の一種であるアレンドロン酸(ALN)が骨塩減少と尿路結石のリスクを低下させるかどうかを評価した。
方法
17人の宇宙飛行士が研究に参加した。抵抗運動装置(ARED)を用いた抵抗運動のみを行う10名 (ARED群)と、抵抗運動に加えて週に1度 70mg骨粗鬆治療薬ビスホスホネート製剤を服用する7名 (ARED+ALN群)について、宇宙飛行前・中・後の尿を採取して解析した。
結果
両群の尿量は、宇宙飛行中に減少したが、宇宙飛行後に回復した。ARED群は宇宙飛行開始15日から30日まで尿中カルシウム排泄増加を示したが、ARED + ALN群ではわずかに減少した。 骨吸収マーカーとしてのI型コラーゲンの尿中N末端テロペプチド(NTX)およびヘリカルペプチド(HP)は、宇宙飛行中および宇宙飛行後0日まで、ARED群で増加したが、ARED +ALN群ではこれらのパラメーターの上昇は認めなかった。シュウ酸塩と尿酸の尿中排泄は、宇宙飛行中のARED + ALNグループよりもAREDグループの方が高い傾向であった。
結論
これらの結果は、長期間の宇宙飛行中には、分解されたI型コラーゲンからシュウ酸塩および尿酸の尿中排泄の増加が引き起こされ、さらに骨からのカルシウムの尿中排泄の増加を通じて、尿中シュウ酸カルシウムおよびリン酸カルシウム結石の形成のリスクが高まる可能性があることを示している。わたしたちの発見は、尿路結石形成のリスク因子の増加を引き起こす宇宙飛行中の骨吸収の増加が、骨吸収阻害剤によって効果的に防止できることを示唆している。
【研究助成】
なし。
【論文タイトル】
Bisphosphonate Use May Reduce the Risk of Urolithiasis in Astronauts on Long-Term Spaceflights.
「ビスホスホネートは長期宇宙飛行における宇宙飛行士の尿路結石形成リスクを低下させる」
【著者】
岡田淳志1* (*Corresponding author) 、松本俊夫2, 大島博3, 磯村達也4, 古賀正5, 安井孝周1, 郡健二郎1, LeBlanc A6, Spector E7, Jones J6, Shackelford L8, Sibonga J8
1 名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野, 2 徳島大学 藤井節郎記念医科学センター, 3 宇宙航空研究開発機構, 4 東京医科大学医学総合研究所, 5 聖マリアンナ医科大学 薬理学, 6 Baylor College of Medicine- Center for Space Medicine, 7 KBR Wyle, 8 NASA Johnson Space Center
【掲載学術誌】
「JBMR Plus(ジェイ・ビー・エム・アール・プラス)」
DOI: 10.1002/jbm4.10550
【研究に関する問い合わせ】
《研究全般に関するお問い合わせ先》
岡田 淳志(おかだ あつし)
名古屋市立大学大学院医学研究科 准教授
腎・泌尿器科学分野
〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
E-mail:a-okada@med.nagoya-cu.ac.jp
【報道に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 医学・病院管理部経営課
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-858-7114 FAX:052-858-7537
E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp
(2021/11/08 07:44)
2024/11/05 16:00
オイシックス・ラ・大地、東京慈恵医科大と共同臨床研究を開始
がん治療の化学療法時における、食事支援サービスの効果を研究
2024/10/29 12:34
世界初、切除不能膵癌に対する
Wilms腫瘍(WT1)樹状細胞ワクチンを併用した化学療法を考案・実施
2024/10/25 12:25
精神発達遅滞やてんかんの発症に関わる転写制御因子(ARX)の働きを解明