2024/12/06 17:18
キャラクター活用による病院内での心地よい空間づくりの取り組み
研究成果は、米国の科学誌「The Journal of Urology(ザ・ジャーナル・オブ・ウロロジー」に2021年11月26日(米国東部時間)掲載
【研究の背景】
停留精巣(cryptorchidism)は、生まれつき精巣が陰嚢(いんのう)内へ下降しない先天異常疾患で、出生男児の約1-4%に見られ、小児泌尿器科領域で最も頻度の高い疾患の一つです。国内外で診療ガイドラインが作成されており、診断後早期に手術治療(精巣固定術)を行うことが推奨されています。停留精巣を治療せず、放置することによって起こる合併症の一つに、精子形成障害があります。ヒトをはじめとする哺乳類のオスの多くでは、精巣は腹腔(ふくくう)外である陰嚢内にあり、周囲の温度が3-4℃低い環境に置かれています。実験動物の精巣を腹腔内に移動させると精子形成障害が起きることが分かっており、高温環境が哺乳類の精子形成障害の一因と考えられています。
私たちはこれまでに、幼少期に精巣固定術を行うことで将来の精子形成障害を抑制できることを、動物モデルを用いて証明してきました。しかし、近年の国内外の研究から、たとえ精巣固定術を適切な時期に行っても、精子形成障害を防ぐことができない一部の症例があることが分かってきました。幼少期の時点で、将来の精子形成障害を予測する方法として、精巣生検による精子形成細胞数の評価が行われています。一方、精巣生検は手術時でないと行うことができず、手術前には予測することができませんでした。手術前に将来の精子形成障害を予測することができるようになれば、停留精巣の治療マネジメントに大きなインパクトがあります。そこで、精巣生検によらない、将来の精子形成障害を予測しうるバイオマーカーを同定することを考え、本研究を行いました。
【精巣組織と性ホルモン調節機構】
精巣組織の内部には、図1のように精細管と呼ばれるパイプ状の構造が折り畳まれており、パイプの内部で精子形成が行われます。精細管の外縁に位置する細胞を起点として、細胞分裂・形態形成を経て成熟した精子は内腔へと向かい放出されますが、幼若期にはその構造が未熟なまま細胞分裂は停止しており、その細胞は「精原細胞(spermatogonia)」と呼ばれます。精原細胞の一部は、組織幹細胞である「精子幹細胞(spermatogonial stem cells)」と考えられており、将来の成熟精子の供給源となります。先行研究から、幼若期の精細管あたりの精原細胞数が少ない停留精巣の症例では、精液中の精子数が少なかったことが報告されています。
また、精細管内には、精原細胞をサポートするSertoli(セルトリ)細胞が、精細管外の間質にはLeydig(ライディヒ)細胞が存在します。Sertoli細胞は脳下垂体から分泌されるFSH(Follicle-stimulating hormone;卵胞刺激ホルモン)によって、AMH(Anti-Mullerian hormone:抗ミュラー管ホルモン)や、Inhibin B(インヒビンB)といったホルモンを産生します。Leydig細胞はLH(Lutenizing hormone:黄体形成ホルモン)の刺激で男性ホルモン(テストステロン)を産生し、これらのホルモンは男性内性器の成熟や精子形成に関わります(図2)。
【本研究の成果】
本研究では、血清ホルモン値によって停留精巣における精子形成障害を予測できるか明らかにすること、を目的としました。そこで、2014年12月〜2019年5月までの間に名古屋市立大学病院で手術を行った停留精巣の患児323人を対象とし、手術時年齢、患側、治療前の精巣位置、治療前の血清ホルモン値(FSH、LH、テストステロン、AMH、インヒビンB)、精巣サイズ(容積)、精巣組織所見、を検討しました。停留精巣の手術時に精巣生検を行って得られた精巣組織を、精原細胞マーカーである抗DDX4抗体を用いて免疫染色し、1精細管あたりの平均DDX4陽性細胞数(G/T;mean number of germ cells per tubular transverse section)として計測・算出して使用しました。本研究は本学倫理審査委員会の承認のもとに実施しています(IRB No. 60180016)。
他疾患の合併症例やデータ欠損症例などを除外した145例で統計学的解析を行いました。両側とも停留精巣の症例では、片側例に比べ、血清インヒビンB値が有意に低く(96pg/ml vs 125pg/ml, p = 0.026)、G/Tも有意に低下していました(0.20 vs 0.65, p < 0.001)。片側例でも両側例でも、停留精巣の治療前の位置(腹腔内、鼠径(そけい)管内、陰嚢上部)が変わっても、ホルモン値やG/Tの変化は認められませんでした。血清ホルモン値は出生後から1〜2年の間に大きく変動することが知られているため、2歳以下に限定した解析を行いました。2歳以下の両側例では、片側例と比べ血清インヒビンB/FSH比が有意に低く(75.7 vs 140, p = 0.036)、G/Tも有意に低下していました(0.24 vs 0.66, p < 0.001)。さらに、血清インヒビンB/FSH比、AMH/FSH比は、G/Tと正の相関を認めました(それぞれ p = 0.008, 0.019)。精巣生検でG/Tが0.4以下の症例は、将来の精子形成障害をきたす可能性が高く、男性不妊症のハイリスク群と考えられています。血清ホルモン値によってG/Tが0.4以下と相関するかどうかROC解析を行ったところ、インヒビンB/FSH比あるいはAMH/FSH比が低いこと、FSH値が高いこと、がG/Tが0.4以下であることを予測しうること、を明らかとしました(それぞれ、p = 0.019, 0.004, 0.004)。
【研究のポイント】
・停留精巣の重要な合併症の一つに、将来の精子形成障害がある
・適切な時期に適切な手術治療を行なっても、精子形成障害におちいる症例が存在する
・これまで、将来の精子形成障害を予測するには、手術時に行う精巣生検しか手段がなかった
・血清ホルモン値のうちFSH・インヒビンB・AMHを組み合わせることで、将来の精子形成
障害を予測可能であることを明らかにした
・精巣組織所見の予測に、ホルモン値の比を用いたのは初めての試みである
【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】
本研究の成果によって、これまで手術時に精巣生検をしなければ分からなかった、将来の精子形成障害の症例かどうかを、手術前の血清ホルモン値で予測できるようになりました。手術後でしか分からなかった情報を手術前に得ることができ、過剰な精巣生検も回避できるメリットがあります。
停留精巣は、患側・精巣位置・合併疾患など多様性が高いため、それぞれの症例における将来の精子形成障害を画一的に捉えることは困難です。将来的には、不妊症リスクの高い症例を層別化した診療が求められると考えられます。現に、ヨーロッパの一部では、停留精巣の手術後にホルモン療法を行い、精子形成障害を抑える試みが行われています。本研究で得られた成果が、こうした新たな診療の一助となり、不妊症のハイリスク症例を幼若期に発見することができれば、男性不妊症の早期診断・治療につながることが期待されます。
【用語解説】
1. 停留精巣(cryptorchidism):精巣が正常な下降経路を通って陰嚢内に下降しない先天性疾患。
2. 精子形成(spermatogenesis):有性生殖における雄性配偶子である精子が形成される過程。
3. 男性不妊症(male infertility):男性因子により不妊症をきたす病態。
【論文タイトル】
Low serum inhibin B/follicle-stimulating hormones and anti-Mullerian hormone/follicle-stimulating hormones ratios as markers of decreased germ cells in infants with bilateral cryptorchidism
「低インヒビンB/FSH比および低AMH/FSH比は両側停留精巣の患児における精子形成細胞減少のマーカーとなる」
【著者】
加藤 大貴1、水野 健太郎2*、松本 大輔3、西尾 英紀2、中根 明宏4、黒川 覚史3、神沢 英幸3、
丸山 哲史1、岩月 正一郎3、梅本 幸裕5、安井 孝周3、林 祐太郎2
(* corresponding author)
1. 名古屋市立大学医学部附属東部医療センター 泌尿器科
2. 名古屋市立大学大学院医学研究科 小児泌尿器科学分野
3. 名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野
4. 名古屋市立大学大学院医学研究科 地域医療教育研究センター
5. 名古屋市立大学医学部附属西部医療センター 泌尿器科
【掲載学術誌】
学術誌名:「The Journal of Urology(ザ・ジャーナル・オブ・ウロロジー)」
DOI番号:10.1097/JU.0000000000002344
【研究に関する問い合わせ】
名古屋市立大学大学院医学研究科 小児泌尿器科学分野
准教授 水野健太郎
住所:〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地
E-mail:kmizuno@med.nagoya-cu.ac.jp
【報道に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 医学・病院管理部経営課
住所:名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-858-7114 FAX:052-853-7537
E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp
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