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特発性肺線維症、発症メカニズムの解明につながる動物モデル
~間質性肺炎発症機序の詳細を探る~ 名古屋市立大学

 研究成果の概要

 本報告では、ブレオマイシンを用いた肺炎誘導 (超音波技術を利用) により、急性炎症の後、特発性肺線維症 (Idiopathic pulmonary fibrosis, IPF) 様の症状を呈する新規の特発性肺線維症マウスモデル (induced-usual interstitial pneumonia, iUIP, 特発性間質性肺炎) を樹立した。この新規マウスモデルは、肺線維症の特徴となる蜂巣肺構造を呈する。この他、肥厚性上皮細胞や毛細血管の減少などの表現型を示すことを特徴としている。iUIPモデルは、難治性疾患である特発性肺線維症の発症機序の解明に寄与するだけでなく、治療薬開発や新たな治療ターゲットの探索など、多岐にわたる応用が可能となる、世界に類のないユニークな実験系といえる。

 【背景】

 間質性肺炎の中でも特発性肺線維症は予後不良の難治性疾患である。発症機序の解明や、治療薬開発を目的とした、治療ターゲットの探索が望まれている。これまで利用されてきた肺線維症モデルは、急性肺炎を呈した後、急激な緩解を示すため、治療薬の効果検討が困難であるという弱点があった。一方私達が開発したiUIPモデルマウスは、肺炎が慢性化状態を維持することができるため、充分な薬剤投与期間の確保や治療効果の検討が可能となった。

 【研究の成果】

 肺炎の誘導は、ブレオマイシンおよび、マイクロバブルを気管支内投与し、その後胸部を超音波処理して行う (BMS法)。肺炎誘導後2週目には従来モデルで観察されるような炎症を伴う急性の肺線維症を示す (nonspecific interstitial pneumonia, NSIP)。この炎症および線維症は一時的に緩解するが、その後再び線維化を示すようになる。すなわち二峰性の肺線維化状態を示す。

 蜂巣肺構造(矢印部分)では、呼吸を行うための肺胞構造が失われていた。この領域の周囲では、線維化が進み、肺の基本構造の再構築ができない、いわゆる「固い肺」になっていることが分かった。このような領域では、前がん状態と考えられる移動性を獲得した肥厚性の上皮細胞が存在し、毛細血管網も減少するなど、重度の間質性肺炎状態となっていることが分かった。

 【研究のポイント】

 ・ブレオマイシンの気管支内投与により、2峰性の線維症を示す新たな間質性肺炎、特発性肺線維症マウスモデルを構築した。
 ・ヒトにおける間質性肺炎の病態進行を再現する新規モデルである。
 ・特発性肺線維症治療薬候補を用いた、POC(Proof of Concept、動物モデルを用いた概念実証試験)取得に利用できる。
 ・特発性肺線維症治療薬開発や新たな治療ターゲットの探索などへの応用が期待される。

 【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

 本研究で樹立したiUIPマウスモデルは、肺に強い炎症を惹起した後にIPF様の症状を呈する。本モデルの使用は、特発性肺線維症の発症機序解明に寄与するほか、治療ターゲットの探索にも応用が可能である。今後は、iUIP肺由来の薄切切片 (precision cut lung slices、PCLS) を用いたEx vivo培養系の樹立を進めていく。新たなハイスループット実験系をラインナップに加えることで、特発性肺線維症治療戦略をより迅速に進めていきたい。

 【用語解説】

 特発性肺線維症 英語ではIdiopathic Pulmonary Fibrosis(IPF)と表記され、肺胞に“傷”ができ、その修復のためにコラーゲンなどが増加して肺の間質部が厚くなる病気です。特発性とは、発症原因が不明であること言いますが、喫煙との関連性が高く、高齢の男性で多く発症する傾向があります。特発性肺線維症は、国の指定難病とされていて「特発性間質性肺炎」の1種に分類されています。

 【研究助成】

 ・文部科学省・日本学術振興会科学研究費補助金(26461470、23591444、17K09982、 17K16055)
 ・名古屋市立大学 特別研究奨励費1943005
 ・個人寄付 古屋 徹氏
 ・オーストラリア国立保健医療研究評議会(1165690)

 【論文タイトル】

 Bimodal fibrosis in a novel mouse model of bleomycin-induced usual interstitial pneumonia
特発性肺線維症を示す新規マウスモデル(iUIP mouse model)

 【著者】

 Yoko Miura1, Maggie Lam2, Jane E. Bourke2, and Satoshi Kanazawa1
三浦陽子1、マギー・ラム2、ジェーン・バーク2、金澤智1

 【所属】

 1 Department of Neurodevelopmental Disorder Genetics, Nagoya City University
Graduate School of Medical Sciences, Nagoya, Aichi, Japan
 2 Department of Pharmacology, Biomedicine Discovery Institute, Monash University, Clayton, Australia

 【掲載学術誌】

 学術誌名:Life Science Alliance 
 DOI番号:10.26508/lsa.202101059

 【研究に関する問い合わせ】

 名古屋市立大学 大学院医学研究科 
 脳神経科学研究所 神経発達症遺伝学分野 助教 金澤 智
 住所:名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
 E-mail:kanas@med.nagoya-cu.ac.jp

 【報道に関する問い合わせ】

 名古屋市立大学 医学・病院管理部経営課
 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
 TEL:052-858-7114  FAX:052-858-7537
 E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp


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