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東京都千代田区は、認知症の当事者らが思いや悩みなどを語り合う「認知症本人ミーティング」を、区内のファミリーレストランなどで開催している。コロナ禍でも継続的に開かれており、ファミレスの従業員も認知症の人に対応する研修を受け、参加者にも好評だ。2022年5月11日、報道陣に公開されたミーティングの現場を取材した。(時事通信社内政部 神園昌志記者)
岩田裕之さん(写真左から4番目)、当事者の男性(写真左から2番目)ファミレスで実施された「認知症本人ミーティング」
ミーティングは、認知症バリアフリーの地域づくりの一環で、当事者が抱えている思いや悩みなどを自由に語り合い、より良い暮らしや地域の在り方について話し合う場として、区が20年2月に立ち上げた。「実桜(みお)の会」と名付けられ、認知症の当事者と家族らで構成する。
新型コロナウイルスの感染拡大という状況の中でも、切れ目のない支援が必要であるという考えから高齢者向けの取り組みは継続しており、ファミレスを含めて月1回、区内各所で開催されている。
ミーティングでは、当事者とその家族で別々に席が用意され、それぞれに分かれて話し合う。当事者が「家族の前では気兼ねして言えないようなことも自由に話せるように」と考えてのことだ。このように、当事者が自由に語るということに重きを置いている。
ミーティングは当初、区の高齢者総合サポートセンター「かがやきプラザ」のみで実施していた。こうした中、「日常の中で一般の人に溶け込みながら話をする機会があれば」という当事者の声をきっかけに、20年9月からはセブン&アイ・フードシステムズの協力の下、今回の舞台「デニーズ二番町店」をはじめ区内にあるデニーズの店舗も会場としている。
デニーズでの開催はこの日で12回目。6月8日には新たな試みとして、区内のカフェを会場に開かれた。
東京都健康長寿医療センター研究所の杉山美香研究員は、こうしたミーティングをファミレスで開くことについて「ファミレスは、地域の中で普通に集まることのできる誰でも行くような場所で、参加のハードルが低い」とメリットを語る。
認知症には、診断された本人がそれを受け入れられないという難しさがあり、行政の施設や地域包括支援センターなどでの当事者会や相談窓口には行きたがらない当事者もいるという。そうした中で、「デニーズだったら行ってもいい」と、ファミレスでの開催回にのみ参加する当事者がいるそうだ。
デニーズの従業員は認知症に関する研修を受けており、それも安心して過ごせる理由の一つだ。参加者は一般の利用客と同じように好きなメニューを選び、自分で料金も支払う。
認知症と診断されると、外に出て人と話すことを医師らに勧められるが、当事者が1人で外出するのは本人の不安もあり難しい。ファミレスでの開催は当事者への良い刺激になっているという。杉山氏は「おいしいパフェをみんなで食べようとか、そういう楽しさがあるのが、行政の施設での実施とは違った良さだ」と話す。
当事者会の中心メンバーである岩田裕之さん(56)は、「ファミレスは明るい雰囲気で、デザートの話で盛り上がったり、仲良く笑って話したりするのにいい」と話し、「1人でいると気持ちをため込んでしまう、外に出て同じような困り事を持つ人と話すことは大事だ」と強調した。
会話の内容も、認知症に関する悩みだけではないようだ。当事者の男性(76)は、「ここが楽しいから来ている。悩みじゃなくても、話をするのが楽しい」と言い、今回は直前の大型連休の過ごし方や趣味のウオーキングについて話したという。「ミーティングに参加するようになって、友人ができ、次に会えるのを心待ちにしながら日々を過ごすようになった」と笑顔で語った。(時事通信社「厚生福祉」2022年07月15日号より転載)
(2022/08/08 05:00)
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