2024/12/04 05:00
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がん(悪性腫瘍)の特徴の一つに、「他の臓器に転移する」というものがあります。
実は、この「転移」という現象を患者さんに説明する際、理解していただくのが難しいと感じることがよくあります。
転移したがんかどうかが重要なのは、それによって、がんの性質や治療法が全く異なり、 使うべき抗がん剤も違うからです【時事通信社】
◇「原発巣」と「転移巣」
一例を挙げてみます。
血便をきっかけに、大腸がんが見つかった人がいるとします。精密検査を受けたところ、肝臓にも腫瘍があり、大腸がんが転移したものだと判明しました。
がんが進行すると、周囲の血管にがん細胞が入り込み、血流に乗って他の臓器に運ばれることがあります。
大腸からの血流は、その多くが肝臓に流れ込むため、がん細胞も肝臓にたどり着きやすくなります。したがって、大腸がんは肝臓に転移しやすいがんです。
さて、この状況において、大腸にあるがんを「原発巣」と呼びます。その名の通り、がんが「原発」した、すなわち、最初に現れた部位のことです。
一方、肝臓にあるがんを「転移巣」と呼びます。
◇全く異なる病気
ここからが重要ですが、この転移巣は、「肝臓から生まれたがん」ではありません。もう少し正確に書くと、「肝臓を構成する細胞ががん化したもの」ではありません。
あくまで、大腸がんのがん細胞が肝臓に移動し、そこで塊を作ったものです。つまり、原発巣である大腸がんと、おおむね同じ性質を持っています。
よって、抗がん剤を投与すると、原発巣も、転移巣も、同様に小さくなる、という現象がよく起こります。同じ種類のがん細胞が、場所を変えて増殖したものだからです。
この肝臓のがんは、一般的には「肝臓がん」と呼ばれません(「転移性肝がん」と呼ぶことはあります)。単に「肝臓がん」と呼ぶと、「肝臓から生まれたがん」、すなわち、肝臓に原発巣があるがんと区別がつかないからです。
肝臓から生まれたがん(肝臓を構成する細胞ががん化したがん)と、大腸がんの細胞が移動して肝臓に塊を作ったがんは、性質が全く異なり、治療法も全く異なります。
使うべき抗がん剤も違います。生まれの違う、全く異なる病気だからです。
◇「再発」と呼ぶケース
こういうケースもあります。
血便をきっかけに大腸がんが見つかり、他の臓器には転移がない状態で、原発巣である大腸がんを手術で取る方針になったとします。この場合、原発巣を切除した時点で、身体の中から目に見えるがんはなくなります。
ところが1年後、肝臓に腫瘍が現れます。精密検査の結果、肝臓に見つかった腫瘍は、大腸がんが転移したものだと分かりました。
これも大腸がんの「転移」ですが、このケースを特に「再発」と呼びます。
「再発」は、文字通り、がんが「再び発生したもの」ですが、やはり「肝臓から生まれたがん」ではありません。
原発巣の大腸がんを切除する前から、すでに目に見えないがん細胞が血流に入っていて、これが肝臓で「目に見えるサイズまで大きくなったもの」だからです。
つまり、タイミングは異なるものの、一つ目の例と同じ現象が肝臓に起きたことになります。
◇定期検査が必要な理由
私たちは、目に見える(検査で検出できる)サイズにならなければ、病気を病気と認識できません。
最初から転移がある状態と、後から転移が現れてくる状態。これはいずれも、原発巣からがん細胞が移動したもので、違うのは「最初の段階で検出できたか否か」です。
逆に言えば、最初の段階で「他の臓器に転移がない」と判断されても、それは「検査で検出できる範囲内では」という「但し書き」が付きます。
目に見えないがん細胞は検出できない以上、「原発巣にしかがんはない」と100パーセント言い切ることはできないからです。
従って、多くのがんは、原発巣を切除して肉眼的にがんが身体からなくなっても、数年にわたる定期的な検査が必要です。
大腸がんなら術後5年が目安です。再びがんが現れないかどうか、慎重に見張り続ける必要があるからです。
がんと、その転移という現象。何となくイメージできたでしょうか。
(2022/10/05 05:00)
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