2024/11/06 05:00
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最近の100年で、医療・健康を取り巻く状況は大きく変化しました。
現代では、喫煙の健康リスクはよく知られています
例えば、喫煙率の変化です。
近年、喫煙する人の割合は急激に低下し、今の日本では、喫煙者は男性の約3割、女性の約1割です。
ところが、昭和40年の喫煙率は、男性で約8割と極めて高いものでした(女性は約2割)。
今なら「タバコなどもってのほか」と考える人でも、周囲の8割もの男性がタバコをたしなむ環境に置かれたなら、「自分も始めてみようか」と思うかもしれません。
かつて十分に認識されていなかった喫煙のリスクは、現代では広く知られるようになりました。
例えば、がんになった人のうち男性で30パーセント、女性で5パーセントは喫煙が原因とされますし、「喫煙者は非喫煙者より寿命が8~10年短い」とされています(1,2)。
「1本タバコを吸うたび寿命が11分短くなる」とも言われ、その恐ろしさは周知の通りです(3)。
医学知識が高まったことで、健康リスクが広く認識されるようになった好例だと言えます。
◇大きく変化した死因
また、死因の順位も大きく変化しました。
今や4人に1人はがんで亡くなる時代ですが、戦前の死因上位を占めていたのは肺炎や胃腸炎、結核などの感染症でした。衛生環境の改善や抗菌薬の進歩などによって、これらが死因となるケースは激減したのです。
一方、近年急速に増えたのが、がんによる死亡です。
なぜ、これほどがんが増えているのでしょうか?
医療が進歩したにもかかわらず、がん死が増えていることに対して、
「抗がん剤は毒である」
「がん治療は全く進歩していない」
という批判の声を聞くことがありますが、もちろんそういうわけではありません。
がんは、高齢になるにつれ急激に増える病気です。厚生労働省が発表する、年齢階級別のがん罹患(りかん)率の推移を見てみると、多くの種類のがんが、60歳代後半から70歳代にかけて急激に増加することが分かります(4)(※乳がんや子宮がんなど比較的若年層にも多い一部のがんは除きます)。
例えば、がん罹患数上位から順に、大腸がんや肺がん、胃がんが最も多い年齢層は80~90歳代です(5)。
一方、平均寿命はどうでしょうか?
日本の平均寿命は男女ともに80歳を超え、女性に至っては90歳が目前です。ところが、1955年当時の平均寿命を見てみると、男性は63.6歳、女性は67.7歳(5)。
今より、実に20年近く早く亡くなっていることが分かります。
そして、まさにこの年代以後、増え始めるのが、がんという病気です。
医療の進歩によって寿命が延び、「がんにかかるまで生きられる人が増えた」という事実が、データから見て取れるのです。
医学に限らず、自然科学の世界は、直近1世紀で驚くほど進歩しています。
今の世界を正確に知るには、過去から今に渡るデータをしっかりと理解する必要があるのですね。
(参考文献)
(1). British Medical Journal, 345:e7093. 2012
(2)国立がん研究センター がん情報サービス「たばことがん もっと詳しく」
(3) British Medical Journal, 320:53, 2000
(4) 厚生労働省「令和元年全国がん登録 罹患数・率報告」
(5) がん情報サービス「がん種別統計情報」
(6) 厚生労働省「平均寿命の推移」
山本健人氏
山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。
(2022/11/16 05:00)
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