結核〔けっかく〕 家庭の医学

 結核は結核菌(ヒト型結核菌;マイコバクテリウム・ツベルクローシス)により、主として肺がおかされる病気ですが、全身どこにでも病変を起こします。
 結核は、かつては死亡率第1位の国民病としておそれられていましたが、第二次世界大戦後に、有効な薬剤が開発されるに伴い、また栄養状態などが改善されて、適切な治療を受ければ治る病気となっています。
 世界中どこでもみられる感染症で、日本でも減少傾向ではありますが、現在も毎年約1万人が新規に発生しています。65歳以上の高齢者の発症が半数以上を占めています。先進国のなかでは日本の罹患率はたいへん高い状況でしたが、2021年に人口10万人あたり10人を切り、世界保健機関(WHO)の分類で「低まん延国」となりました。
 感染経路は、飛沫(ひまつ)感染と空気感染です。診断が遅れ集団発生するケースもふえています。喀たん中に菌が混入している場合(排菌)は、ほかの人に感染しないよう注意が必要で、排菌していない場合はその心配はありません。
 臨床症状では肺結核の場合、微熱、せき、全身倦怠(けんたい)感などです。検査としては、胸部X線検査と、たんからの結核菌の存在の有無です。X線検査では肺に影がみとめられ、血たんが出たり、空洞がある場合には排菌している可能性が高いので、老人や小児がいる家庭や集団生活の場では注意が必要です。
 微熱やせきが続く場合は病院で検査を受けてください。肺結核については「呼吸器の病気」の肺結核症で触れています。
 肺以外の病変には全身性播種(はしゅ)性結核(粟粒〈ぞくりゅう〉結核)があり、重篤な経過をたどります。このほか、結核性髄膜炎、腸結核、腎・尿路結核、骨結核(カリエス)、結核性腹膜炎、皮膚結核、結核性関節炎などいろいろな臓器、組織に病気を起こします(肺外結核)。

[治療]
 治療にはイソニアジド、リファンピシン、エタンブトール、ピラジナミド、ストレプトマイシンなどの薬物療法が中心になり、3~4剤を併用します。長期間の治療が必要です。耐性菌の発現を防止するためにも、治療は完結することが重要です。
 排菌している人は、感染力が強いため入院して治療します。また、体力がおとろえている人、重症者も入院治療が必要です。

[予防]
 軽症では、ふつうの日常生活をしてさしつかえありません。しかし、薬を服用することで肝臓に負担がかかり、激しいスポーツや飲酒などは避けなければなりません。さらに、せきで他人に感染することもあるので、マスクなどの着用を心掛けるようにします。
 排菌している人との接触があった場合は、接触者検診をおこない、感染の疑いがある場合は、潜在性結核として、発症予防のために抗結核薬の内服治療をおこないます。
 予防接種として広く用いられているのが、本来牛に感染する牛型結核菌を時間をかけて弱めた生ワクチンのBCGです。乳幼児に対して予防効果があります。
 予防接種法では、生後12カ月未満の乳児期に1回の接種をおこなうこととされています。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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