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禁煙が一番の予防法
~増えている慢性閉塞性肺疾患~ 医学博士 福田千晶

 先日、歌舞伎俳優の片岡秀太郎さんが慢性閉塞性肺疾患で亡くなられました。2018年に亡くなられた落語家の桂歌丸師匠も同じ疾患だったと記憶しております。慢性閉塞性肺疾患は「chronic obstructive pulmonary disease」を略してCOPDと呼ばれ、高齢化などに伴って患者数が増加してきました。このため国の健康づくり計画「健康日本21」にも対策が盛り込まれ、啓発の取り組みが進んでいます。

長年の喫煙習慣などにより発症する

 ◇肺の生活習慣病

 COPDは、たばこの煙などの有害物質を長い間吸い続けたことにより生じるため「肺の生活習慣病」とも言えます。

 肺は果物のブドウに似た形状をしており、枝のような気管支の先に酸素を取り入れる肺胞と呼ばれる袋状のものが付いています。有害物質に長年さらされ、慢性的に気管支が炎症を起こして気管支の壁も傷んでいる「慢性気管支炎」と、肺胞の壁が厚くなったり壊れたりして、肺胞で酸素を十分に取り込めず、肺の機能が低下する「肺気腫」が組み合わさった状態を総称して「COPD」と呼んでいます。

 COPDの肺の状態は紙風船によく例えられます。「正常な肺胞は風船みたいに空気をいっぱい受け入れたり、受け入れた空気を勢いよく吐き出したりできるけど、COPDの人の肺胞は、紙風船みたいに力がなくなって勢いよく吐き出すこともできないし、たっぷりの空気は吸い込みにくくなる」などと表現されます。

 初期の段階では症状はありませんが、気管が炎症を起こすとせきやたんなどの症状が継続するようになります。気管支が傷んで狭くなると、ゼイゼイいう呼吸音(喘鳴=ぜんめい)が表れます。さらに肺胞の壁も傷んでくると、肺胞での酸素の取り入れがうまくできなくなって体内に取り入れられる酸素が不十分になるため、息切れなどの症状が表れます。

 ◇全身に影響

 全身で酸素が不足し、さらに動くと苦しくなるため、運動量や生活上での活動量が低下します。そのため栄養障害、筋肉機能の障害、骨粗しょう症、心・血管障害、不安・抑うつなども合併することがあります。COPDは肺の病気にとどまらず、全身に影響を及ぼす病気でもあるのです。

 医療機関を定期的に受診しているCOPDの患者さんは厚生労働省の2014年調査によると約26万人でした。しかし、実際は40歳以上の日本人の500万人以上がCOPDに罹患(りかん)していると考えられ、そのほとんどが放置されているわけです。また、喫煙者の5~6人に1人くらいは生涯でCOPDになるとも言われています。ただ、COPDは喫煙して20年以上経過してから発症する人がほとんどなので、喫煙率が減少傾向にある中、患者数は今後、減っていくかもしれません。

 私は人間ドックや健康診断の受診者を診察することが多いのですが、受診時に持参する問診票に「慢性閉塞性肺疾患(COPD)で治療中もしくは経過観察中」という記載を見ることが結構あります。でも、実際はそれよりはるかに多い患者さんがいると思うと驚きです。

 自覚症状がない初期のCOPDは、診察や一般的な検査で発見されないことがあります。検査には、胸部レントゲン、肺機能検査、胸部コンピューター断層撮影(CT)、血液中の酸素・二酸化炭素量の測定などがあります。特に大切な検査である肺機能検査では、思い切り息を吐いた時に、最初の1秒間に吐き出せる量が、吐き出せる全容量(肺活量)の70%以下だとCOPDが疑われます。その状況で、他の肺疾患がない場合は他の検査結果と併せて検討し、COPDと診断されます。

 ◇コロナで発見の遅れも

 肺機能検査は人間ドックなどでも広く行われるため、この検査でCOPDが発見されることも多いのです。ところが、昨年からの新型コロナウイルス感染拡大により、肺機能検査は飛沫(ひまつ)感染のリスクがあるため、医療機関によっては中止しています。そのため肺機能検査を受け損なった人も多く、COPDの発見が遅れる人もいると心配されています。

 COPDで傷んだ肺胞を元に戻す特効的な治療法はありません。症状軽減のため狭くなった気管支を広げる気管支拡張薬を内服することはあります。また、血液中の酸素濃度が低下した人は、酸素吸入を行うこともあります。さらに広く行われているのは、リハビリテーションです。呼吸器のリハビリテーションも、リハビリの世界では大きな分野の一つです。

 呼吸器のリハビリテーションでは、まず呼吸法の習得や訓練を行います。まず「口すぼめ呼吸」でゆっくり息を吐き、しっかり吐ききったら鼻から息を吸います。これを毎日続けることで、症状が緩和される人もいます。

 呼吸に関わる胸郭周囲のストレッチも大切です。呼吸に関わる肋骨(ろっこつ)とその間にある筋肉などが大きく動くようにして呼吸を助け、少しでも楽にできることを目指します。

 動くと息切れがすると、人は動きたくないものです。COPDで息切れがすると、動くのがつらく、運動量や活動量は低下し、筋力も弱くなり、持久力も低下します。そうなると、今までと同じ活動もさらにつらく感じ、ますます動きたくないという悪循環に陥ります。COPDのリハビリでは、筋力や持久力低下を予防し、少しでも筋力や持久力が向上して「今までより楽に動ける、動きやすい体」を目指します。筋力や持久力が強化されると、体内では一定の作業をする場合に、それ以前より少ない酸素量で行えるようになります。

「世界禁煙デー」には、世界各地でさまざまな形で啓発キャンペーンが行われる=5月31日、ソウル(EPA時事)

 ◇予防に一番重要な禁煙

 COPDの予防や進行予防に最も大切なのは「禁煙」です。喫煙者の皆さまは何かきっかけを見つけて、禁煙を始めることをお勧めいたします。禁煙成功者の体験談を聞くと、「風邪をひいて吸いたくなかった日を機に」「子ども(または孫)が生まれたから、元気で長生きしたくなった」「愛煙家だった知人が肺がんで亡くなった」「健康を大事にしたくなった」といった意見が多いようです。

 禁煙に関心を抱くきっかけになる「世界禁煙デー」は毎年5月31日なので、今年は既に終わってしまいました。しかし、禁煙にまつわる記念日は他にもあります。日本呼吸器学会、日本肺癌学会、日本循環器学会をはじめ32学会が加盟している「禁煙推進学術ネットワーク」が定めた「毎月22日は禁煙の日」です。「2」は形状が白鳥(英語でスワン)に似ていることから「22日はスワンスワン(吸わん吸わん)の日」となったようです。これは、毎月チャンスがありますから、今度の22日から禁煙を始めるのはいかがでしょうか?(了)


福田千晶氏

 ▼福田千晶(ふくだ・ちあき)

 慶應義塾大学医学部卒業、医師として東京慈恵会医科大学病院リハビリテーション科勤務を経て、クリニックでの診療と産業医業務を行う。勤務医時代に、エッセーや論文のコンテストでの受賞などをきっかけに執筆活動も開始し、健康に関するテーマで著書や監修書は多数。

 日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本人間ドック学会人間ドック健診専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本体力医学会健康科学アドバイザー。

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