治療・予防

認知症の行動・心理症状を改善
~患者に優しさを(群馬大学大学院 内田陽子教授)~

 認知症では、記憶障害、注意障害、言語障害など脳の病変に起因する認知(中核)症状以外にも、徘徊(はいかい)、暴力、暴言、妄想、抑うつなどの行動・心理症状(BPSD)がある。

 「脳の機能低下に手を差し伸べられなくても、BPSDはケアの仕方や環境調整によって改善する可能性があります。大切なのは、本人に優しく接することです」と群馬大学大学院保健学研究科の内田陽子教授は力説する。

BPSDの要因

 ◇分かってほしいサイン

 BPSDが出る理由は、認知症状に加えて、生活環境、本人のもともとの性格やそれまでの生き方、ケアの内容などさまざまな要因がある。どれが影響するかはその人によるため、症状には個人差がある。

 「BPSDは認知症のせいだと決め付けて、周囲の人は原因を考えないでいることが多いです。しかし、BPSDは困っている自分を分かってほしいという『訴えのサイン』です。何に困っているかを見極める必要があります」

 本人の訴えを知る上で重要な点として、「急に怒りだす、ありもしない話を繰り返すなどのサインが出たときは、まず体調を確認しましょう。体のかゆみや痛み、発熱便秘、不眠などが見つかれば、適切なケアと医療で治ります」と話す。

 また「新しく服用を始めた薬が原因とも考えられます。環境の急な変化による影響もあり得ます」。具体的にはケアをする人が代わる、見慣れた家電を買い替えるなども原因になり得る。

 ◇介護者もSOSを

 BPSDが出た場合、ケアをする人はつい否定的な態度や言葉を使ってしまいがちだ。「本人の気持ちの根底には孤独、寂しさ、置き去りにされるのではないか、という不安があることを理解して、自分の怒りをぐっとこらえ、優しく接する方が無駄なエネルギーを使わずに済みます。体調に問題がなく、良い対応ができていればBPSDは落ち着いています」。運転免許返納のようなプライドが傷つく出来事があったときなどは、特にねぎらい、思いやりを心掛けるとよい。

 内田教授は介護者自身に対して「自分だけで何とかしようとせず、ヘルパーさんやリハビリ、デイサービスなど外の手をどんどん借りましょう。自分の手には負えないと自覚し、SOSを出すことが賢明です」とアドバイスしている。

 なお、内田教授はプロの介護者向けに、情報技術(IT)を利用して効果的にケアを行う「包括的BPSDケアシステム」の開発に携わっている。一般向けにも試用できるため、BPSDへの対応に悩む人はホームページ(http://bpsd.jp)から問い合わせを。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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