医学部・学会情報

ビタミンDサプリメントを摂取すると癌の死亡率は12%減少する
国際共同研究による10万人のデータ解析で明らかに 東京慈恵会医科大学

東京慈恵会医科大学分子疫学研究部浦島充佳教授らは、ドイツの癌研究センター、アメリカのハーバード大学やラホヤアレルギー免疫研究所、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、フィンランド、オーストラリア、ニュージーランドなどとの国際共同研究により二重盲検ランダム化プラセボ比較試験に参加した10万人のデータをメタ解析し、ビタミンDサプリメントの連日内服により癌種に関係なく癌死亡率が12%減少していたことを明らかにしました。本メタ解析には浦島教授らの実施したアマテラス試験も含まれます。


< ポイント >
●ビタミンDサプリメントの連日内服により癌種に関係なく癌死亡率が12%減少した
●70歳以上の場合は癌死亡率が17%減少し、高齢者で特に有効だった
●癌の発症前から連日で内服していた場合は13%、発症後でも11%の癌死を予防した
●連日の内服は有効だったが、月1回の大量内服では無効だった

 本研究はfunding of the systematic review by the charity foundation German Cancer Aid から資金援助を受けたものであり、成果は3月31日にAgeing Res Rev誌に掲載されました。

東京慈恵会医科大学 分子疫学研究部 教授 浦島充佳 のコメント
 世界では毎年二千万人近くが癌を発症し一千万人が癌で亡くなっています。近年では多くの癌治療薬も開発されつつありますが年間一千万円以上の高額な医療費がかかります。一方、ビタミンDサプリメントは安価かつ容易に入手でき、1日2000IU(国際単位)の連日内服であれば副作用は報告されていません。また日光を浴びれば無料で体内のビタミンD濃度を上げることも可能です。もし癌死亡を12%減少できれば、理論上は年間120万人の命を救えます。
 このような研究を国際共同研究として実施し得たことに誇りと喜びを感じます。しかし、現段階ではビタミンDサプリメントの摂取が有意に癌死を抑制すると言い切ることはできません。何故なら、全体では有意な結果を得たものの、私たちの実施したアマテラス試験を含めて1つ1つの試験においては有意な結果を得られていないからです。そのため、ビタミンDサプリメント投与の有効性と安全性を1つの臨床試験で明らかにするべく2022年1月より第2弾となるアマテラス2試験を開始しました。

アマテラス試験、アマテラス2試験について

<アマテラス試験>
ビタミンDは日光にあたることにより皮下でつくられ、日本で実施される試験であることから、天照大神にあやかりアマテラス試験と名付けました。2010年から8年間データを蓄積し食道から直腸に至る消化管癌患者417人に対してビタミンDサプリメント(2,000IU/day)とプラセボ群に3:2の割合で振り分け、再発あるいは死亡の数を比較するものです。ビタミンD群は術後2週間前後より試験用サプリメントの内服を開始しました。その結果、ビタミンD群の5年無再発生存率は77%、プラセボ群では69%と、ビタミンD群は再発・死亡がプラセボ群と比較して8%少なくなりましたが、統計学的に有意といえる程ではありませんでした(P=0.18)。この結果は2019年にアメリカ医師会雑誌(JAMA)に発表されました 。

〇事後解析で見えた2つの仮説
アマテラス試験の結果から見て取れた傾向をもとに、2つの仮説を立てました。

仮説1.ビタミンDサプリメントは術後早期ではなく、遅発性の癌の再発・死亡を抑制する
サプリ内服開始後1年半までは両群での再発、死亡率にほとんど差がなく(図1)、差が開くのはそれ以降です。サプリ内服開始1年未満の期間を含めずに解析すると、ビタミンD群の5年生存率は85.8% であり、プラセボ群では76.4%となりました(図2)。ハザード比 = 0.57; 95%CI, 0.33-0.98; P=0.04 とビタミンDが有意に再発・死亡リスクを抑制していました。


仮説2.病理免疫組織でp53が強陽性、すなわちp53に変異があるものに対して有効である
アマテラス試験の病理組織検体を事後解析し、癌抑制蛋白の1つであるp53 が10%より多く染まっていた癌をもつ患者だけに対象を絞った場合、5年生存率はビタミンD群で79% であり、一方プラセボ群のそれは57%でした。ハザード比 = 0.52; 95%CI, 0.31-0.88; P=0.02 とビタミンDが有意に再発・死亡リスクを抑制していました(図3)。この結果は2020年に誌上発表しています 。
さらにp53陽性癌で「サプリ内服開始1年未満の再発・死亡を含めない」という条件でこれを事後解析すると、ビタミンD群の5年生存率は88% であり、一方プラセボ群のそれは62%でした(図4)。ハザード比 = 0.33; 95%CI, 0.16-0.65; P=0.001 とビタミンDが再発・死亡リスクをおよそ3分の1にまで抑制していました。


<アマテラス2試験>
アマテラス試験の事後解析で立てた2つの仮説を証明するべく、2022年1月より慈恵医大附属病院と国際医療福祉病院の多施設共同研究という形でアマテラス2試験(JK121-009 , jRCTs031210460)を開始しました。癌患者、特にp53陽性癌患者において術後2か月以内から試験終了までビタミンDサプリメント(2000 IU/day)を連日長期投与する群と、プラセボを投与する群にランダムに振り分け、遅発性(投与開始から365日以降)の再発、あるいは全ての原因による死亡ハザード・リスクを比較し、ビタミンDサプリメント投与の有効性を検討します。また、有害事象(高カルシウム血症等)の発現率を群間で比較し、ビタミンDサプリメント投与の安全性についても検討します。

<参考>
Kuznia S, Zhu A, Akutsu T, Buring JE, Camargo CA Jr, Cook NR, Chen LJ, Cheng TD, Hantunen S, Lee IM, Manson JE, Neale RE, Scragg R, Shadyab AH, Sha S, Sluyter J, Tuomainen TP, Urashima M, Virtanen JK, Voutilainen A, Wactawski-Wende J, Waterhouse M, Brenner H, Schöttker B. Efficacy of vitamin D3 supplementation on cancer mortality: Systematic review and individual patient data meta-analysis of randomised controlled trials. Ageing Res Rev. 2023 Mar 31;87:101923.

2万5千人を対象に実施されたビタミンDサプリメントとプラセボを用いた2重盲検ランダム化臨床試験:Manson JE, Cook NR, Lee IM, Christen W, Bassuk SS, Mora S, Gibson H, Gordon D, Copeland T, D'Agostino D, Friedenberg G, Ridge C, Bubes V, Giovannucci EL, Willett WC, Buring JE; VITAL Research Group. Vitamin D Supplements and Prevention of Cancer and Cardiovascular Disease. N Engl J Med. 2019 Jan 3;380(1):33-44.

1.    Urashima M, Ohdaira H, Akutsu T, Okada S, Yoshida M, Kitajima M, Suzuki Y. Effect of Vitamin D Supplementation on Relapse-Free Survival Among Patients With Digestive Tract Cancers: The AMATERASU Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019 Apr 9;321(14):1361-1369.

2.    Akutsu T, Okada S, Hirooka S, Ikegami M, Ohdaira H, Suzuki Y, Urashima M. Effect of Vitamin D on Relapse-Free Survival in a Subgroup of Patients with p53 Protein-Positive Digestive Tract Cancer: A Post Hoc Analysis of the AMATERASU Trial. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2020 Feb;29(2):406-413.

医学部・学会情報