いびき、昼間の強い眠気があれば注意
~閉塞性睡眠時無呼吸~
大きないびきをかき、昼間に強い眠気に襲われる「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」。SASの中でも、喉や舌が睡眠中に弛緩(しかん)して気道をふさいで呼吸が断続的に中断される「閉塞(へいそく)性睡眠時無呼吸」(OSA)では、血中の酸素が不足するたびに睡眠が分断される(脳波上の覚醒)。その結果、良質な睡眠を確保できず、日中の眠気や集中力の低下を引き起こす。これにより、交通事故や労働災害を誘発する確率が高まってしまう。
さらに、睡眠中の繰り返す無呼吸と酸素不足は、交感神経を刺激し、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の発症、そして脳梗塞や心不全などの脳血管疾患の合併リスクを高め、生命予後にも影響を及ぼすとされている。国内における潜在的な患者数は軽症以上で2200万人、中等症以上は940万人以上と推定されており、成人男性の2割、閉経後の女性では1割以上と言われている。順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)の井下綾子准教授(耳鼻咽喉・頭頸科)は疾患の認知度の低さなどから、「潜在的な患者は多いが、適切な治療を受けている患者は決して多くないのが現状」と嘆く。

CPAPの本体とマスク。その間を長いホースが結ぶ
◇呼吸を継続させるための治療が必要
OSAの治療としては、枕元に置いた機械から鼻マスクを通してのどに空気を送り込み、気道の閉塞を防ぐ「持続陽圧呼吸(CPAP=シーパップ)療法」が一般的。国内では約78万人がこの治療を受けている。CPAP療法は、機器のレンタル費が3割負担で月5000円前後かかるほか、機械に接続された鼻マスクを睡眠中に着用している時だけ効果を発揮する。このため、治療を中断すれば症状が再発してしまう。
その上、①鼻や副鼻腔(ふくびくう)に慢性炎症がある②皮膚炎でマスクを着けられない③睡眠中に無意識のうちにマスクを外してしまう―などの理由でこの治療を継続できない人もいる。また、機械がかさばるため持ち運びしにくいといった問題もあり、治療を始めても3割以上が中断してしまう。
吉本興業のタレントの菅良太郎さんもその一人。「バイクが部屋に突っ込んできた」と言われるほどのいびきだったことから医療機関を受診。CPAP療法を始めたが、マスクを着け続けることができず、十分な治療効果を得られないため中断した。その頃は「眠れないことよりも(CPAPのマスクを着けて)眠ることがより大きなストレスになっていた」と振り返る。

舌下神経電気刺激療法のイメージ図
◇小型の電極で舌下神経を刺激
そんな中、菅さんが出会ったのが「舌下神経電気刺激療法」。舌が気道をふさがないように舌下神経に対して呼吸運動に合わせて電気刺激を与えて動かし、呼吸を安定させようという治療法だ。外科手術によって舌下神経に刺激電極を設置し、さらに小型のペースメーカーのような機器を鎖骨の下に埋め込む。この機器が睡眠時の呼吸のリズムに合わせて微弱な電気刺激を発し、細いケーブルを通じて神経を刺激し、舌筋を前方へ収縮させる仕組みだ。

菅良太郎さんと井下綾子順天堂大准教授 (順天堂大学提供)
術後、数日から2週間程度は舌や口に違和感が生じることがあり、適切な刺激レベルを見いだすまでに一定の時間が必要だが、CPAPの継続に比べれば患者の自由度は大きい。高度な外科手術が必要とされるが、さまざまな補助制度を利用すれば、健康保険の3割負担で総額約20万円の負担で受けることができるという。10~11年後にペースメーカーの電池が切れれば、交換のための再手術が必要となる。
菅さんは手術後1日で退院。後遺障害はなく、快適な睡眠が取れているという。主治医を務めた井下准教授は「重度の肥満や喉の形などでこの治療を受けられない場合もあるが、CPAPによる治療が受けなられなかったり、続けられなかったりした人には非常に有望な治療法」と話す。(喜多壮太郎)
(2025/05/02 05:00)
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