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20〜30代に伝えたい骨密度の話

 「骨の健康は年齢を重ねてから気にするもの」「骨密度は50代以降の閉経後の女性や高齢者の話」などと思っていませんか? 実は20〜30代が非常に重要で、この時期に骨密度をしっかり高め維持しておくことが、その後の骨折リスクや健康寿命に大きく関わってくるのです。今回は、そんな若い女性に知ってほしい骨密度の基本と、未来の自分を守るためのケア方法について詳しく説明します。

丈夫な骨はミネラルの含有率が高い(イメージ画像)

丈夫な骨はミネラルの含有率が高い(イメージ画像)

 ◇骨密度ってなに?

 まずは、骨密度について簡単に説明します。骨密度とは骨に含まれるミネラル(カルシウムやリンなど)の量を示す指標です。骨が丈夫でしっかりしているかどうかを知る大切な数値になります。

 大きな特徴は以下の三つです。

 ・ 20歳前後がピーク
 骨量は10代の頃からぐんと増え、20歳前後で最も多くなります。この時期にしっかり骨を強くしておくことで、将来の骨の健康が守られます。

 ・ 閉経後に低下
 女性は50歳ごろに閉経を迎えると、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少します。これにより、骨密度も低下しやすくなります。

 ・バランスの良い食事運動、日光浴で維持・向上可能
 骨密度を維持するためには、バランスの良い食事を心掛け、カルシウムやビタミンD、タンパク質などの栄養素をしっかり取ることが重要です。また、適度な運動と日光を浴びる習慣も欠かせません。

 ◇危惧される過度なダイエット

 現代では「痩せている=美しい」という価値観が広がり、「美容体重」「モデル体重」といった言葉も当たり前のように耳にします。SNSやメディアでは、極端なダイエット法や食事制限を勧める情報も多く、10〜20代の若い女性たちは影響を受けやすい環境にあります。

 しかし、過度な食事制限は、骨に必要な栄養素の不足や女性ホルモンのバランスの崩れを引き起こす原因になります。カルシウムが不足すると骨の形成が不十分になり、ビタミンDの不足はカルシウムの吸収低下を招きます。タンパク質が足りなければ骨の強度が弱まるのです。

 これらの栄養不足が続くと、骨量が増える大切な時期に十分な骨密度が得られず、将来的に骨粗しょう症のリスクが高くなります。

 ◇出産・授乳期も要注意

 妊娠・出産・授乳期にも注意が必要です。産後は女性ホルモンが急激に減少し、さらに授乳中はカルシウムや栄養を赤ちゃんに与え続けるため、骨密度が一時的に低下します。

 ただし、授乳期が終わった後は徐々に元に戻ると言われています。この時期に不足した栄養素をしっかり補えば、回復を促すことができます。産後は育児で忙しく、自分のケアは後回しになりがちですが、カルシウム・ビタミンD・タンパク質を意識した食事や軽い運動を取り入れて、骨の健康を守りましょう。

バランスの良い食事、運動、日光浴で骨密度は維持・向上できる(イメージ画像)

バランスの良い食事、運動、日光浴で骨密度は維持・向上できる(イメージ画像)

 ◇心掛けたいケア

 骨密度の低下は静かに進行します。自覚症状が出る頃には、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まっている場合も少なくありません。だからこそ、20〜30代のうちから意識して骨を守る習慣を身に付けておくことが重要です。

 ・ バランスの良い食事
 カルシウムは乳製品や小魚、緑黄色野菜、ビタミンDはきのこ類や魚、タンパク質は肉や魚、大豆製品などに多く含まれています。食事の際にこれらを意識して取りましょう。

 ・ 適度な運動
 骨は適度な負荷がかかることで強くなります。ウオーキングや筋力トレーニング、ヨガなどの運動を取り入れて、骨に良い刺激を与えてください。

 ・ 日光浴
 日光を浴びると体内でビタミンDが作られます。1日15〜20分程度、日差しの強くない時間帯に手や顔を日光に当てるようお勧めします。

 ◇未来を見据えて

 若年層にとって、骨密度や骨粗しょう症といった身近とは言えない問題に向き合うのは簡単ではないかもしれません。ですが、今から意識して骨を大切にすれば、将来、元気でアクティブな生活を送れます。今のあなたの行動が未来の自分への最高のプレゼントになるのです。(了)

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子(たくし・みなこ)
 琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、インスタグラムやポッドキャスト番組「女性と更年期の話」で、診察室での患者とのリアルなやりとりに基づいたストーリーを伝えている。
 日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。

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