治療・予防

多様性が健康のカギ
~日本人の腸内細菌(医薬基盤・健康・栄養研究所 国沢純ヘルス・メディカル微生物研究センター長)~

 腸内細菌はおなかの調子だけでなく、全身の健康に関わることが分かっている。望ましいのは多種類の腸内細菌がバランスよく存在する多様性のある環境だ。医薬基盤・健康・栄養研究所ヘルス・メディカル微生物研究センター(大阪府茨木市)の国沢純センター長に話を聞いた。

腸内細菌の多様性

 ◇腸内細菌には個人差

 腸管には数百種類、100兆個の菌が存在するとされるが、種類や個数は人種や国によって異なり、同じ日本人でも個人差が大きい。国沢センター長は、全国の健康な成人の腸内細菌について、2017年から調査している。

 参加者には、食事運動などの生活習慣に関する質問に答えてもらい、さらに血液検査、病歴などから健康状態を把握。「便を採取して腸内細菌の状況を調べ、その人の生活習慣や健康状態との関連を解析します」

 調査の結果、善玉菌であるビフィズス菌・乳酸菌の保有率や、菌の状態と食の関係や健康への関わりが示される。多種類の菌がバランスよく存在していれば多様性は高い。菌の種類が少なく、特定の菌が大部分を占める状態は多様性が低い。

 「多様性が低いことが病気の原因になる可能性が示されているため、多様性を高めることが重要です」。結果は参加者に伝えられ、食生活改善の助言・指導も行われる。

 ◇介護や栄養指導にも

 腸内細菌は食物の成分を餌にしているので、さまざまな食物をバランスよく取れば、菌の種類も増えて多様性が高まる。ある地域で行った調査では、参加者に2カ月間、朝食の白米やパンの代わりに、不足しがちな食物繊維の豊富なもち麦を食べてもらったところ、多くの人で菌の多様性が高まったという。

 「腸内環境に良いとされる食物でも、効果には個人差があります。個人差を決める因子の解明や、効果がない人向けの代わりの食べ物を探索することも課題です」

 これまでの調査参加人数は、20地域9000人以上に上る。そのデータを活用し、人工知能(AI)技術で食物の健康効果を予測するシステムづくりが進行中だ。「将来は、介護や栄養指導などの場で、個人の腸内環境に最適な食事を提供・提案できるでしょう」と国沢センター長は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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