治療・予防

他人の腸内細菌を移植
~ふん便移植(ルークス芦屋クリニック 城谷昌彦院長)~

 ヒトの腸内にはおよそ1000種類・100兆個もの細菌が生息しており、一般的にバランスのとれた多様性の豊富な腸内細菌叢(そう)が私たちの健康に寄与しているとされている。しかし現代は、食生活の欧米化や抗菌薬の使用、ストレス過多などにより腸内細菌叢のバランスは乱れ、多様性も失われがちだ。

 そうした中、健康な人の腸内細菌を移植して崩れた細菌叢を立て直すユニークな治療法「ふん便移植」への関心が高まっている。ふん便移植を研修する「腸内フローラ移植臨床研究会」(大阪市)で専務理事を務めるルークス芦屋クリニック(兵庫県芦屋市)の城谷昌彦院長(消化器内科)に聞いた。

菌液の原液(右)を特殊な溶媒で10~45倍に希釈(左)して使う

菌液の原液(右)を特殊な溶媒で10~45倍に希釈(左)して使う

 ◇菌液を肛門から注入

 近年、腸内環境の悪化がさまざまな病気を引き起こすことが分かってきた。腸内細菌叢のバランスを整える方法として注目されているのがふん便移植だ。

 「ふん便移植は、2013年以降に欧米でクロストリジウム・ディフィシルという細菌による感染症の治療法として注目されるようになりました。日本では現在、大学を中心に潰瘍性大腸炎クローン病などを対象にした臨床試験が行われています」と城谷院長は説明する。

 腸内フローラ移植臨床研究会は、全国の医療機関や民間のふん便ドナーバンクと連携し、移植を行っている。安全性や有効性は検証中で、公的医療保険が適用されない自由診療だ。

 移植する腸内細菌は、健康な人の便から不純物を取り除き、異物への拒絶反応が起きにくい特殊な水溶液で溶かして使う。大腸内視鏡は使わず、患者の肛門から柔らかいゴムの管で菌液を注入し、体位を変えながら腸の奥まで行き渡らせる。

 移植は1回10分ほど。3~6回が1クールで、病気の種類や進行の程度によって回数は異なる。

 ◇500人以上に実施

 2017年以降、同研究会は連携医療機関で、過敏性腸症候群やアレルギー疾患、便秘自閉スペクトラム症など500人以上の患者に移植を実施してきた。

 副作用は一時的に下痢出血が見られるケースがあるが、移植を繰り返すうちに治まっていく患者が多いという。

 「ふん便移植はさまざまな病気の治療選択肢となり得る方法です。今後、消化器専門医だけでなくさまざまな専門家や医療機関との連携を広げて、一人でも多くの患者さんの健康を取り戻したい」。同研究会の連携医療機関は全国に15施設ある。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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