2024/12/04 05:00
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医療情報収集のヒント
私が医師として研究を行い、その結果を広く知らしめたい、と思ったら何をするでしょうか。
SNSに投稿する?
ブログに書く?
はたまた、ウェブサイトの連載で紹介する?
発信の手段はいろいろあります。
私のSNSのフォロワー数は合計12万人を超えますし、運営している自分の医療情報サイトには、これまで1200万回以上のアクセスがあります。
発表の場となる医学雑誌はさまざまだ
この「時事メディカル」には2019年から連載を続けていますし、Yahoo!ニュースのオーサーとして記事を公開することもできます。
本を書くのも一手かもしれません。2年前に書いた『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)は17万部を超え、今年9月に出版したばかりの第2弾『すばらしい医学』が今、全国の書店に並んでいます。
◇成果を知ってほしい
ともかく、自分の研究結果が他の専門家の役に立つかもしれない、ひいては患者さんの利益になるかもしれない、と考えれば、その成果を多くの人に知ってほしいと思うのは当然です。
しかしながら、私が最初に選ぶのは、上述のいずれの方法でもありません。なぜなら、その研究結果はまだ、第三者の批判的吟味を受けたことがなく、科学的に妥当性が担保されていないからです。
それならば、どのような方法で発信すればいいでしょうか?
◇学術的な発信の手段
自ら得た科学的な知見を発信する時、第一に検討したいのは論文を書くことです。
実は、自分の書いた論文を世に出すことはそう簡単ではありません。「査読」と呼ばれる審査をくぐり抜けなければならないからです。
編集者に「掲載の価値なし」として門前払いされることもしばしばありますし(editorial rejectionと呼びます)、複数の審査員(レビュアー)からさまざまに問題点を指摘され、結果として「掲載できない」という判断が下されることもあります。
一方で、レビュアーから指摘された問題点を一つ一つ丁寧に改善し、最終的に掲載に至るケースもあります。つまり、このプロセスで良い論文は磨かれて質は高まり、科学的に未熟な論文は淘汰(とうた)される、というわけです。
私にとっては、SNSやブログ、本に書く方がよほど簡単です。しかし以上のような理由から、私は学術的な知見は必ず論文にし、そのハードルを越えてから、自分の発信チャンネルで紹介することにしています。
◇「論文ならいい」というわけではない
もちろん、論文として出版できれば信頼性の高い知見だ、と言い切れるわけではありません。第三者の批判的吟味を受けることで、ようやく「議論の土俵に立てる」という方が正確でしょう。
逆に言えば、私の豊富な発信チャンネルを使って大勢のフォロワーに「私見」を必死で叫んでも、残念ながら自然科学の議論の輪に入ることはできないのです。
ちなみに、医学雑誌の中には、掲載が難しい「ハイインパクトジャーナル」と呼ばれるものから、そうでないものまでさまざまにあります。どの雑誌に掲載されているかによって、私たちは「その論文がどれだけ厳しい関門をくぐり抜けたか」を知ることができます。
私たちが日頃、自然科学の世界で、どのように情報発信や情報収集を行っているか。この記事で知っていただけたらありがたいと思います。(了)
山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。
(2023/10/04 05:00)
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