教えて!けいゆう先生

病気になった時の情報の集め方
~陥りがちな落とし穴~ 外科医・山本健人

 想像してみてください。

 もし、あなたや、あなたの家族が病気になったら––。

 あなたはきっと、病気の治療や薬の副作用などについて、専門家からさまざまな情報を得るでしょう。その一方で、あなたは自分自身でも、インターネットや本を利用して医療情報を収集しようとするはずです。

 インターネットやSNSで病名や症状名を検索すれば、たくさんの情報が手に入ります。書店に行けば、たくさんの医療本、健康本が所狭しと並んでいるのを目にするでしょう。

氾濫する医療情報に注意しよう【時事通信】

氾濫する医療情報に注意しよう【時事通信】

 ◇三つの注意点

 さて、今回お伝えしたいのは、医療に関する情報を収集する際に陥りがちな落とし穴です。

 誰しも病気になると、健康な時ほど心理的に余裕を持つことができません。誤った情報にすがり、治療に悪影響を及ぼしてしまうことがあるのです。

 ここでは、三つの注意点をまとめましょう。

 ◇病気は単純ではない

 1、単純化されたシンプルな情報を信じる

 「〇〇するだけでがんが治る」

 このように、単純で分かりやすい情報を優先的に信じ、理解が難しそうだと感じた情報は捨ててしまう。そういう傾向は誰しもあります。

 例えば、「がん」は200種類以上の異なる病気の総称です。これらを「がん」とひとまとめにして、「がんを治すには〇〇せよ」と単純化できるならどれほど楽か、と思います。

 病気の成り立ちは非常に複雑で、人間は一人ひとり違った身体を持っています。

 「がん」をひとまとめにできないどころか、たとえ同じ「大腸がん」でも、その種類や進行度、できた部位などは人によって異なり、それぞれ治療法も全く異なります。

 複雑なものを複雑なまま受け入れなければ、真実にたどり着くことはできません。

 ◇宣伝文句に踊らされない

 2、極端に負担の少ない情報を信じる

 「〇〇せずに簡単に痩せる」

 このように、科学的根拠のない、かつ極端に負担の少ない「治療法」や「予防法」は、インターネットや本でたくさん見つかるでしょう。

 簡単に実現できる対策に誰もが魅力を感じるからこそ、この種の宣伝文句が流布しているのです。

 しかし、当然ながら物事の真偽は、実現性の難易とは関係がありません。

 簡単にできることばかりを優先していると、気付けば正確な情報から遠ざかっていることがあります。

 ◇余裕を持って情報収集を

 3、信じたい情報を信じる

 「何も治療しなくても〇〇は自然に治る」

 こんなうわさを一度でも耳にしたことがあると、その考えを補強してくれる情報を無意識に集めてしまう傾向があります。

 例えば、インターネットやSNSで、

 「がん 病院に行かずに治す方法」

 といったキーワードで検索し、信じたい答えだけを読み込み、「やっぱりうわさは本当だった」と信念を強めていくのです。

 誰しも、「信じたいものを信じる」弱さがあります。

 しかし、自然科学における真実は時として、自分にとって不快で、不都合で、信じたくないものです。心に余裕がない時ほど意識的にニュートラルな情報収集を心掛けなければ、あっという間に誤情報にだまされてしまうのです。


山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

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