治療・予防

がんに地域性
~日本人の起源にも関係~

 働く人をがんから守るために、がん検診受診率の向上などを目指す「がん対策推進企業アクション」の催しが2月、東京都内であった。東京大学病院の中川恵一特任教授(総合放射線腫瘍学講座)が「日本人の起源とがん~がんの県民性~」と題して講演。日本人の死因第1位であるがんの原因は「感染型」が最も多いとした上で、胃がんの発症は東北地方、乳がんは大都市圏に多いなど、がんと地域の関係を説明した。同時に、「検診を通じて自分のがんリスクを知ってほしい」と強調した。

医学的に有効と照明されている検査

 ◇発がん要因トップは感染型

 かつては喫煙(能動喫煙)が予防可能な発がん要因のトップだったが、現在は感染だ。1960年代くらいまでは男性の喫煙はいわば当たり前で、肺がんのリスクが高かったとされる。近年は健康志向の高まりで喫煙者が減り、公共空間や飲食店などにおける禁煙が拍車を掛けた。中川特任教授は「そうした経緯から感染型がんが第1位となった」と話した。

 胃がんの原因の約95%が子どもの頃のピロリ菌感染で、子宮頸(けい)がんの原因はほぼ100%が性交渉によるHPV感染だ。肝臓がんでは原因の7~8割がⅭ型とB方の肝炎ウイルス。一方、母乳によって感染する白血病もある。

中川恵一教授

 胃がんが多い秋田県

 注目したいのは、都道府県によって死因となる主ながんが異なることだ。秋田県では男女共に胃がんの死亡率が極めて高い。「年によって変動はあるが、秋田県はトップの常連だ」と言う。原因の一つは過剰な塩分摂取とされてきた。中川教授は「胃がんの最大の原因はピロリ菌だ。それに過剰な塩分摂取が加わることで、発症しやすくなる」と語る。

 中川教授は、胃がんを減らすために減塩の食事と検査によってピロリ菌の有無をチェックするように勧める。「ピロリ菌の検査で陽性だった場合は除菌した方がよい」。喫煙や飲酒も胃がんのリスクを高める。

 ◇肝臓がんは佐賀県

 肝臓がんは佐賀県などに多い。肝臓がんの原因としては、C型ウイルスとB型ウイルスによる感染が挙げられる。このうちC型が約7割を占める。成人してからの感染はほとんどないが、検査をした方がよい。中川教授は「就職時などに感染しているかどうかを確認しておいた方が安心できる」と言う。感染していた場合は抗ウイルス剤が有効だ。

「乳がん月間」に合わせて兵庫県姫路市の世界遺産姫路城がシンボルのピンク色にライトアップされ、スカイランタンが宙を舞った= 2022年

 乳がん、東京など大都市

 乳がんの罹患(りかん)率は40年間で4倍に急増した。現在は9人に1人が乳がんを患う状況だ。乳がんのワースト1は東京都で、中川教授は「少子化、出生率の低下が最大の原因だ」と指摘した。

 乳がんを増やす最大の要因は女性ホルモンだが、妊娠期間中は女性ホルモンの環境が変わり、乳がんリスクが激減する。

 少子化が進んだ現在の日本女性は、生涯に450回ほど生理を経験するが、平均7人出産していた100年前は85回。少子化で乳がんが急増する。

 ◇母乳で感染する白血病

 成人T細胞白血病(ATL)は母乳などを介して感染するウイルス(HTLV-1)が原因だ。白血病は小児に多いが、ATLはがんが長い時間をかけて成長する。国内のウイルス保菌者は約100万人と推定され、年間約7割が発症するとされている。最悪の場合には発症から2年以内に死亡することもある。

 遺伝子にも関係する。縄文人と弥生人のゲノムが異なることが分かっている。縄文人はもともと広い範囲で生活していたが、渡来した弥生人による大和朝廷によって近畿から東北、九州に追いやられた。HTLV-1の国内での分布を見ると、縄文人の分布と一致するという。ATLは東北や南九州、沖縄県などに多い。縄文人のゲノムが色濃く反映されているとみられる。

 前宮城県知事の浅野史郎さんは61歳でATLを発症し、懸命な闘病を続けている。元プロ野球・広島の投手で野球殿堂入りした北別府学さんもATLを患い、65歳で死去した。浅野さんは岩手県、北別府さんは鹿児島県の出身だ。

 感染予防のために中川教授は「まず母乳をそのまま与えないことだ」と言う。その上で3カ月以内の短期母乳や母乳の加工を勧める。加工は、母乳を56度で30分加熱したり、マイナス20度で12時間凍結したりする。

 ◇お酒に弱い弥生人系

 弥生人系のがんリスクもある。飲酒だ。飲酒は口頭がんや食道がん、肝臓がんなどを増やすとされている。アルコールが肝臓で分解される時にできるアセトアルデヒドには発がん性があるが、アセトアルデヒド脱水酵素(ALDH2)が酢酸に分解する。弥生人系はこの酵素が変異している。簡単に言うと、縄文系は酒を飲んでも赤くならないが、弥生系は赤くなる。酒に弱いタイプは近畿や東海、中国地方に多いという。

 中川教授はがんの地域性などを踏まえ、「自分のがんリスクを知ることが大事だ。そのために、がん検診を受けてほしい」と強調した。(鈴木豊)

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