治療・予防

気候変動が心の健康に影響
~気温上昇で自殺率も増加(東京大学大学院 橋爪真弘教授)~

 世界各地で起きている気候変動の影響は身近なところにも及んでいる。乳幼児や妊婦、高齢者の身体的健康への影響が懸念される中、メンタルヘルス(心の健康)への影響について、東京大学大学院医学系研究科(東京都文京区)国際保健政策学の橋爪真弘教授に話を聞いた。

気候変動は健康危機

 ◇災害後にうつ病に

 猛暑による脱水や熱中症など、異常気象による体への影響は分かりやすく注目度も高いが、「メンタルヘルスとの関連はあまり知られていない」。

 近年の気候変動により世界各地で増えているのが、「極端気象」と呼ばれる自然災害である。洪水や山火事、熱波といった大規模な自然災害は、家族や友人、家を失うなどの直接的な被害を及ぼす他、「災害後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病発症などを引き起こします」。

 特にもともと精神的に問題を抱えていたり、うつ傾向があったりする人は、影響を受けやすい。そのため、「被災後も診療やケアが引き続き受けられる環境を早期に再構築することが大事です」。

 気候変動の影響が大きいとされるのが、女性や子ども、高齢者や貧困世帯、持病や障害を持つ人など、社会的に弱い立場にある人たちだ。「妊娠中に猛暑を経験すると早産などのリスクが高まるだけでなく、心の健康にも影響を及ぼすことを知ってほしい」

 ◇気候変動は健康危機

 気温の上昇に伴い自殺率も上がることが、日本の疫学研究で分かっている。橋爪教授らが発表した調査(2023年)によると、現在、気温が原因で発生したと考えられる自殺者数は全体の約4.1%とされる。気温が4度上昇すると仮定すると、今世紀末にはその数が6.5%程度に上昇すると予測されている。「熱帯夜が続くと睡眠不足で気分が落ち込んだり、暑さでうつ症状が増えたりして自殺の引き金となる可能性があります。気候変動がメンタルヘルスに及ぼす影響は将来の話ではなく、既に起こっている課題と捉えるべきです」

 地球温暖化は健康の危機であるとの認識を持ち、「子どもや孫の世代のためにも、健康を中心にした気候変動対策を本気で考えなければなりません」と橋爪教授は強調する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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