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温暖化、子どもの健康に悪影響
~ぜんそく・早産誘発、発達障害の懸念も~

 夏の猛暑や暖冬などが頻発する最近の日本。大きな要因として取りざたされているのが、人間活動による気候変動の影響だ。地球温暖化による気温上昇は自然災害の増加をもたらすほか、子どもの健康にも悪影響を及ぼす。ぜんそくが悪化したり、早産のリスクが高まったりするという。子どもの不調は将来にわたって続く恐れがあり、医療の専門家は対策の必要性を強調している。

猛暑の中、日傘を差して歩く人たち(2023年7月、東京・銀座)

猛暑の中、日傘を差して歩く人たち(2023年7月、東京・銀座)

 ◇「夏の暑さは異常」8割超

 2023年は6~8月の平均気温が1898年の統計開始以降で最も高く、最高気温が35度以上の猛暑日も頻発した。東京大学大気海洋研究所の今田由紀子准教授はこの暑さについて、気候変動の影響を定量評価する手法を用いて分析。昨年7月下旬~8月上旬の猛暑は「温暖化がなければ起こり得なかった」との解析結果を示す。

 こうした「地球沸騰化時代の到来」(グテレス国連事務総長)を懸念する声は、一般市民の間でも少なくない。国内の有志医師らが参画する「医師たちの気候変動啓発プロジェクト」が昨年12月に発表した調査結果によると、夏の気象を「異常」と捉えている人は8割を超え、この異常気象が次世代まで続くと考える人も7割近くに上った。さらに、子育て中の男女の6割弱が、同年夏の暑さで子どもの健康が損なわれる危険性を感じていた。

 米疾病対策センター(CDC)は気候変動が人々の健康に及ぼす影響について、熱中症にとどまらず、ぜんそくといった呼吸器系疾患や感染症の増加、メンタルヘルスの悪化などを挙げている。

 ◇気管支刺激、アレルギー物質も増

 東京医科歯科大学の藤原武男教授は、日本でも科学的に明らかになっている事実として、ぜんそくによる入院や夜間受診の増加に言及。そのメカニズムに関し「高い気温にさらされると、気管支のC繊維という知覚神経が刺激されて気管支が閉まるほか、花粉やカビなどのアレルゲンが増える。これがぜんそくのリスクを上げると考えられる」と話す。

藤原武男教授

藤原武男教授

 同教授によると、兵庫県姫路市で行われた調査では、夏に平均気温が1度上がると、その日の夜間救急外来を受診する子ども(0~14歳)が2割ほど増えることが分かった。香港の調査でも、平均気温が30度の夏の日は27度の日よりぜんそくで入院するリスクが高く、子ども(5~14歳)では約1.3倍となった。

 ◇脱水が分娩促す

 早産の危険性が高まることも、教授らの研究グループが実施した10年間にわたる調査で判明している。初夏と盛夏の頃を比べると、暑い盛りの方が早産になりやすく、1日の平均気温が30.2度の場合は16度のときと比べてリスクが8%高まるとしている。原因は脱水状態に陥ることだ。気温が上昇すると、「脱水が起こって子宮への血流が減る。その結果、母体を守ろうと分娩(ぶんべん)が誘発される。脱水によって分泌される抗利尿ホルモンとオキシトシンが誘発に関わっている可能性もある」(藤原教授)。

 このほか、直接の因果関係は証明されていないものの、微小粒子状物質(PM2.5)が脳に影響を及ぼし、発達障害を引き起こすとみられている。「気候変動によって増加すると考えられる大気汚染や農薬の使用は発達障害のリスクとなり得る」と同教授。米英では自閉症スペクトラム障害との関連が報告・示唆されているという。

 ◇被害回避へ行動を

 もちろん、温暖化は子どもだけでなく、大人の健康にも影響する。ただ、子どもの方が影響の度合いは大きい。汗腺が未発達で熱への適応システムが未熟であるほか、▽体重当たりの有害物質へのばく露量が多い▽屋外で活動する時間が長い▽残りの人生が長いため、健康被害の影響が長く続く―などの事情があるからだ。

今田由紀子准教授

今田由紀子准教授

 子どもの健康に対するこうした懸念を放置していいわけはない。藤原教授は「熱中症警戒アラートなどにより、いかに熱を避けるかを考える必要がある。入院する、受診するとなったときのために、医療体制の整備も大事だ」と強調する。

 併せて、温暖化に伴う間接的な影響にも対処しなければならない。例えば大気汚染、花粉やカビの増加、室内で過ごす時間の増加などの問題があり、これに対しては「空気のきれいな広い遊び場を確保する」「早めの時期から外で遊んで汗をかけるようにする」などの方策を示すとともに、化学物質の使用規制を求める。最終的には気候変動そのものへの対策として温暖化の主因である二酸化炭素の排出削減を訴える。

 今田准教授も「地球温暖化の影響のエビデンスを示すのは、皆さんに『本当に大変だ』と実感してもらうことが一番の目的。その上で、子どもたちの健康被害への備え・対策を一人ひとりが考えてほしい」と力説している。(平満)

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