治療・予防

治療中も運動を
~がんロコモは軽視禁物(帝京大学医学部付属病院 緒方直史主任教授)~

 がんやがん治療などが原因で骨や関節、筋肉や神経といった運動器に障害が起き、移動機能が低下する「がんロコモ」。「がんにかかるとがん治療が最優先されるため、運動器に関しては医療者も患者さんも後回しにしてしまいがちですが、決して軽視できません」と、帝京大学医学部付属病院(東京都板橋区)リハビリテーション科の緒方直史主任教授は警鐘を鳴らしている。

がんロコモの主な原因

 ◇要介護リスクにも

 がんロコモの名称は、加齢に伴う筋力低下、膝や腰の関節の障害、骨粗しょう症といった病気により、立ったり歩いたりするための身体機能が低下する「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」に由来する。進行すれば、衰弱や転倒による骨折リスクにつながり、将来的な要介護リスクが高まる。緒方主任教授らの調査では、がん患者のうち約96%がロコモに該当していた。

 主な原因は三つ。一つは、がんの骨への転移や痛み、まひなどによるケース。二つ目は、抗がん剤や手術などがん治療のため長期間の療養生活で筋力が衰えたり、副作用により運動器障害を来したりするケース。三つ目は、変形性関節症や骨粗しょう症など、がんと併存する運動器疾患の進行によるケース。

 「これらが複合的に作用する場合がほとんどです。また、がんに罹患(りかん)している人は、例えば腰痛のような運動器の痛みをがんによるものと思い我慢したり、諦めたりしてしまうこともあります」

 ◇無理のない運動

 がん治療中に運動をするのはハードルが高い。やみくもに運動をしても、治療に悪影響を及ぼしかねない。まずは、整形外科やリハビリテーション施設で、台座からの立ち上がりテストや最大歩幅の計測などを行い、「ロコモ度」を調べるのが賢明だ。その上で、年齢や体力・筋力、病気や治療の状態に合わせて、無理のない範囲で日常生活に運動を取り入れたい。

 ただ、現時点ではがんロコモの運動療法は開発段階にあるという。そこで、「日本整形外科学会が設けている『がんロコモドクター』に相談するのが良いでしょう」。がんロコモに関する知識が豊富な医師が登録しており、痛みの軽減や、立つ、歩くといった移動機能の維持や回復について相談できる。

 「がんになったら治療を最優先させるという『呪縛』にとらわれないでください。運動をおろそかにせず、できる範囲で運動療法を取り入れる意識を持ちましょう」と、緒方主任教授は助言する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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