ロコモ、要支援・要介護の原因1位
~兆候に気付く、ロコトレが大切~
日本整形外科学会が2026年の創立100周年に向け、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の啓発に力を入れている。ロコモは、立ったり、歩いたりする時に働く運動器の障害で移動機能が低下した総合的な状態を指す。要支援・要介護となる原因で、運動器障害はトップの約4分の1を占める。「速く歩けない」「階段の上り下りがきつい」といった兆候に注意し、日常でできるロコモトレーニングの実践などを呼び掛けている。
大腿四頭筋を鍛えるフロントランジ
◇大きい個人差
年を取ると、足腰が弱くなる。「それは当たり前ではないか」と考える人は多い。ロコモを研究テーマとしている埼玉県立大学保健医療福祉学部の山田恵子准教授は「加齢で足腰が弱くなるのは確かだが、人によって個人差が大きい」と言う。それは集団で平均を取った場合と、個人の足腰の力の低下に注目した場合の研究が裏付けている。
ロコモの評価法には、2ステップテスト、立ち上がりテスト、「ロコモ25」の三つがある。ロコモ度1は移動機能の低下が始まっている状態、ロコモ度2は移動機能の低下が進行している状態、ロコモ度3は自立した生活ができなくなるリスクが非常に高く、社会参加に支障を来している状態を指す。
◇ロコモ度テスト
2ステップテストは歩幅を調べるテストで、次のように行う。①スタートラインに両足の爪先を合わせて立つ②できる限り大股で2歩歩き、両足をそろえる③スタートラインから着地点の爪先までの長さを測る(2回行い、良かった方を採用)④2歩幅(センチ)÷身長(センチ)の計算式で2ステップ値を算出する―。1.3以上はロコモではなく、1.1以上~1.3未満がロコモ度1となる。0.9以上~1.1未満がロコモ度2、0.9未満はロコモ度3だ。
立ち上がりテストは下肢の筋力を調べる。10センチ、20センチ、30センチ、40センチの高さの台から反動をつけずに立ち上がる。両脚および片脚で行う。片脚で40センチの台から立ち上がれないが、両脚で、20センチの台から立ち上がれるのがロコモ度1。両脚で20センチの台から立ち上がれないが、30センチの台からは立ち上がれるのがロコモ度2、両脚で30センチの台から立ち上がれないのがロコモ度3だ。
ロコモ25は25の質問に答えてもらい、痛みなど身体の状態や普段の生活状況を調べる。質問ごとに五つの選択肢があり、それぞれ0~4点が配点されている。合計は100点で点数が低いほど良好な状態であり、24点以上がロコモ度3となる。山田准教授はロコモ25の特徴について「質問に『痛み』が含まれている。変化を捉えるために五つの段階を設けている」と話す。
山田恵子・埼玉県立大学准教授
◇4つのロコモサイン
2017~19年に「ロコモチャレンジ!推進協議会」が中心となり、全国の大学や医療機関の協力を得て、独歩可能な20~89歳を対象に大規模な対面調査を実施した。8681人から十分なデータを得た。ロコモ度テストの結果は年齢に連れて悪化し、高齢になると急激に悪化する。一方、若年層でもロコモのリスクは少しずつ上昇する。また、月に数回の運動でも、ロコモ予防の可能性があることが分かった。同学会が24年1月、全国の20歳以上の成人約1万人を対象に行ったインターネット調査でも,ほぼ同様の結果が得られた。
ロコモに陥る前の兆候はある。「階段の上り下り」「急ぎ足で歩く」「休まず歩き続ける」「スポーツや踊り」に関し、困難さの自覚があるかどうかだ。山田准教授は「この四つのうち一つでも出たら、『ロコモサイン』であり、要注意だ」と強調する。
歩行はロコモと深い関係がある。大股ですたすた歩ける人は余命が長いという報告がある(JAMA、2011年)。加齢による歩行の変化で目立つのはまず、歩幅が小さくなることだ。また、蹴りだす力が落ちたり、すり足になったりする。
スクワットはトレーニングの「王様」
◇階段上り下り、大股歩きに効果
では、いったい何をすればよいのか? 山田准教授は「痛みがある場合は整形外科を受診する。痛みがない場合は効果的な運動を試してほしい」と勧める。
階段の上り下りに効果的な運動には大腿四頭筋訓練やフロントランジなどがある。大腿四頭筋訓練は椅子に浅く座り、つま先を上げるように膝を伸ばしたまま脚を上に上げる。反動をつけたり、上げ過ぎたりしないようにする。フロントランジは片方の脚を前に出し、大腿が床と水平になるくらいまで深く腰を落とす。ただ、負荷が高く、バランスも必要とする複合的な運動なので無理はしない。
急ぎ足で歩くためには、大股で歩く必要がある。そのための効果的な運動としては、片脚立ちがある。左右1分ずつが目標だが、いったん脚を着いても合計で1分になるように続ける。不安な人はつかまれるところがある場所で行う。前後と横に片脚を踏み出す運動も有効だ。前者は静的バランス、後者は動的バランスを鍛える。
スクワットは体幹と下肢の筋力を鍛える。山田准教授は「スクワットはトレーニングの王様だ」と言い、階段の上り下りにも効果がある。肩幅より少し広めに足を広げて、つま先を30度くらいに開く。膝がつま先より前に出ないように注意し、お尻を後ろに沈めるように身体を沈める。
健康寿命を延ばすためには、いつまでも自分の足で歩き続けることが欠かせない。ロコトレに取り組んでみよう。(鈴木豊)
(2024/09/20 05:00)
【関連記事】