Dr.純子のメディカルサロン

「女性だから大丈夫」は危険
~高まる動脈硬化や心臓病のリスク~

 循環器の病気脳卒中や心臓病)は男性の病気というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか?

 「女性はたばこを吸う人は少ないし、血圧も低いので動脈硬化になりにくい」「男性はストレスで心筋梗塞になりやすいけど、女性は心配ない」と安心している方も少なくないと思います。でも、実際には一概にそうとは言えません。近年、高齢化によって女性の循環器病の患者さんも増えているのです。

(聞き手・文 海原純子)

 ◇高齢化に伴い増加する女性の循環器病

 今年3月に発表された日本循環器学会の「多様性に配慮した循環器診療ガイドライン」の中で市民に向けた情報が公開されています。

 その中から循環器の病気の社会的な背景や男女の性差なども含めた新しい視点をご紹介し、ガイドライン策定の班長を務めた日本医科大学の塚田(哲翁)弥生先生にご意見を伺います。

 海原 「女性ホルモンで守られているから自分は大丈夫」と思い込んでいる女性に会うことが結構多いのですが、思い込みは危険なのですね。

 塚田 確かに中年までは、男性の方が循環器病の発症は多い傾向がありますが、女性も閉経後はリスクが高まります。女性ホルモンであるエストロゲンには、血管を保護する作用があります。若い間は女性ホルモンに守られていますが、閉経後にはホルモンが減少して動脈硬化や心臓病のリスクが高くなります。閉経後は女性も安心できないと言えます。

 さらに心筋梗塞を発症した場合には、男性よりも女性の方が心破裂や出血性の合併症のリスクが高いと報告されています。高齢になると、心不全、心臓弁膜症の約半分を占める大動脈弁狭窄(きょうさく)症や大動脈解離の一部には女性の方が多い病気があることも分かってきました。特に高齢者の心不全は増加しており、生活の質にも大きな影響を与えています。閉経後は女性も循環器病のリスクが高くなることを意識して、閉経以前から食事運動などの生活習慣に気を付けるように心掛けてほしいです。

 ◇ライフステージで変わる高血圧リスク

「多様性に配慮した循環器診療ガイドライン」より

「多様性に配慮した循環器診療ガイドライン」より

 海原 大動脈解離は心臓に近い大動脈(上行大動脈)から裂け、緊急手術が必要なA型と心臓から離れた部分の大動脈(下行大動脈)が裂けるタイプのB型がありますが、A型は高齢になると女性のリスクが高いのですね。これは知りませんでした。

 塚田 この大動脈疾患をはじめ、循環器疾患の主要なリスク要因になる高血圧も、74歳以下は男性の方が多いのですが、75歳以上になると、男女の有病率はほぼ同じになります。「若いうちはやせていて血圧も低かったのに、閉経したら体重が増えて血圧が高くなってしまって」ということに心当たりはありませんか? 女性は更年期や妊娠などライフステージで血圧も変動しやすく、管理も異なります。繰り返しになりますが、定期的な血圧測定の習慣を持つことが大切です。

 脳卒中についても「男性の方が多い」と思われがちですが、日本では、全脳卒中死亡は、女性と男性の占める割合はほぼ拮抗(きっこう)しています。また、気を付けないといけないのは、女性は発症時に手足のまひ、しびれ、失語などの典型的な症状がないことが多く、診断や治療が遅れてしまうこともあります。日頃から血圧を測定することや、「ちょっと普段と違う」というサインに気が付くことも必要でしょう。

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