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厚生労働省の指定難病である筋強直性ジストロフィーは、成人で最も多い遺伝性筋疾患で、筋力が低下するだけでなく、不整脈や呼吸障害、認知機能障害など全身にさまざまな症状を起こす。診断されても治療法がなく、症状の進行に対して限られた対症療法しかない状況が続いてきた。
山口大学大学院医学系研究科の中森雅之教授(臨床神経学)らの研究グループは、他の疾患に長年使用されている抗菌薬のエリスロマイシンが、病気の根本的な治療薬となり得ることを世界で初めて見つけ、承認申請に向けた臨床試験が最終段階に入ろうとしている。
中森教授は「早ければここ数年で承認申請に至る可能性も出てきている。それまでの間、希望を持って定期的な受診で経過観察を続けてほしい。自覚症状があるのに診断されていない人は、早めに脳神経内科への受診を」と呼び掛ける。中森教授へのインタビューを3回にわたって掲載する。
取材に応じる中森教授
◇ふたが開けられない
ー筋強直性ジストロフィーとは、どんな病気ですか。
全般的に筋肉が落ちていく筋ジストロフィーの一種で、中でも成人の患者数が最も多い遺伝病です。全身の筋肉が落ちていくことに加え、筋強直症状(ミオトニー)という、力を入れた後、力が抜けにくくなる症状があるのが特徴です。また、筋肉だけでなく、心臓では不整脈や心不全、脳では認知機能の低下や昼間に眠くなる日中過眠、注意力の低下、呼吸機能の低下などの症状が表れます。さらに、糖尿病、高脂血症など内分泌系の症状、若年性白内障など、さまざまな症状が全身に起こります。
ーどのくらいの頻度で患者がいますか。
まだはっきりとした数が明らかになっていないのが現状です。国内の推計患者数は1万人に1人ぐらいとされています。ただ、原因となる遺伝子の変化自体は2100人に1人ぐらいといわれ、神経・筋疾患患者登録(Remudy)の筋強直性ジストロフィー登録患者数は2024年9月30日時点で1277人、自分で気づかずに診断されていない人が数多くいると考えられています。
ー症状や発症年齢に個人差が大きいようですが。
発症した大まかな年代によって、生後4週までに発症する「先天型」、小児期に発症する「小児型」、成年期に発症する「成人(古典)型」、比較的高齢で発症する「軽症型」の四つに分類されます。それぞれ症状や重症度が異なりますが、発症年齢が若いほど症状は重くなります(表)。
筋強直性ジストロフィーの年代別病型分類(「日本神経学会編:筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン2020,p.5,2020,南江堂」より許諾を得て転載)
このうち、最も多いのが「成人型」です。「軽症型」は白内障とごく軽い筋強直症状がある程度なので、この病気だと気づかないまま寿命を全うする場合が多いようです。
表にある「リピート数」とは、DNA上の特定の領域に生じた塩基配列の異常な繰り返しの長さを示し、長ければ長いほど早く発症しやすい傾向があります。
ー病気として診断されるきっかけはありますか。
最も多い成人型では、脚の筋肉が衰えてきて、だんだん歩きにくくなってきた、手の力が入りにくく、ペットボトルのふたが開けられないーなどの自覚症状から病院を受診して気づくことが多いようです。ただ、自分で気づかないことが非常に多く、ある程度、症状が進んでから受診するケースが圧倒的に多いです。
よく聞いてみると、筋力が落ちる前から、筋強直症状、例えば、手のひらをギュッと握ったらパッと開かないという症状は、以前からあったものの、病気と思っていなかった、特に気にしていなかったということもしばしばあり、本来なら、もっと早くに診断できたはずという場合が多いです。
ちなみに、先天型の場合は生後まもなく医師が気づきます。身体に力が入らず、泣き声が弱い、呼吸が弱いーなどから、その時点で診断されることが多いです。
軽症型に関しては、家族に他の成人型などの患者がいて気づかれるパターンがほとんどで、逆に家族の中で同じ病気を発症する人がいなければ、全く病気と気づかないまま終わることが多いと思います。
(2024/11/19 05:00)
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