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マウスピース矯正、ここに注意!
~トラブル増で専門家警鐘~

 歯並びを改善する方法の一つに「マウスピース矯正」がある。若者を中心に人気が高まる一方、トラブルも急増し、「ネット上の派手な宣伝文句には注意が必要」などと安易な利用を戒める専門家は少なくない。治療を受ける場合、歯の状態によっては不向きなケースがあるといった特徴を理解した上で、信頼できる歯科医師にかかることが重要という。

日本臨床矯正歯科医会が作成

 ◇かみ合わせ悪化、キャンセル料支払い…

 「マウスピース矯正に関し、いろいろとトラブルが起きているのは事実。相談件数は増加傾向にある」。矯正歯科の開業医から成る日本臨床矯正歯科医会が開いたセミナーで、佐藤國彦副会長は治療への不信感につながる事例の多発に懸念を示した。同会がオンラインで受け付ける相談窓口に今年寄せられた苦情や質問などのうち、マウスピース矯正に関するものは2割を超え、過去最高のペースで推移する。

 2023年までの5年間で見ると、内容は「最初に告げられた治療年数を超えても治らない」「かみ合わせが悪化した」「キャンセル料30万円を支払った」「転院できないと言われた」などさまざま。大まかに分類すると、「術者の技量や資質に関する問題が半分以上を占め、次いで治療契約の問題が多い」(佐藤副会長)。

 社会的に大きな問題になったケースもある。2023年1月には、東京都内の医療法人が「歯列矯正治療が実質無料」などのうたい文句で詐欺的な商法を行ったとして、患者153人が約2億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。他にも、歯科医院が突然閉院し、患者が治療中止を余儀なくされるなどの被害が散見される。SNS上などでは手軽さや低価格を強調した宣伝が目に付く。

 ◇経験ある歯科医の関与なく

 このマウスピースは学術的には「アライナー型矯正装置」と呼ばれる。主な矯正装置の一つに位置付けられ、患者にとっては▽目立たない▽取り外しが可能▽痛みが少ない▽虫歯になりにくい、医師側にも▽「ワイヤー矯正」を行う際の難しい屈曲作業が不要▽歯の移動が比較的早い▽治療時間が短い―などの利点がある。矯正歯科医会の常盤肇理事は「米国ではこの技術は非常に盛んになっており、日本でもニーズが高まっているのは間違いない」と話す。

セミナーで説明する日本臨床矯正歯科医会の常盤肇理事(11月、都内)

 半面、トラブルも相次ぎ、常盤理事の医院にも多くの人がセカンドオピニオンを受けに来るという。同理事は問題点の一つとして、安易に手を出す一般歯科医の増加を挙げる。コンサルティング会社から届く「経験不要の新しいビジネスモデル」「開業3年で急成長」といったダイレクトメールに踊らされてしまうことなどが原因だ。

 さらに①米国の成功事例を模倣した、歯科医がほとんど関与しない手法②「早い」「安い」「簡単」などを前面に出した誇大な宣伝や、厚生労働省が定めた医療広告ガイドラインに抵触するネット広告③治療件数の多寡によって各医院への優遇度を決める一部装置メーカーの取引方法―なども問題視する。この結果、「派手なホームページに誘導されてカウンセリングを受け、『マウスピース矯正ありき』で治療計画が作られたものの、思っていたようには治らないという事態が起こる」という。

 ◇不向きな症例も

 マウスピース矯正には向き不向きがあるとされる。「文献をよく読むと、軽度の不正咬合(ふせいこうごう=かみ合わせの悪さ)に関してはワイヤー矯正と遜色ないが、複雑な不正咬合ではワイヤー矯正の方がよいと書いてある。症例によっては限界があることを分かってほしい」と常盤理事。

 ワイヤー矯正に比べ歴史の浅いマウスピース矯正を「発展途上」と位置付ける同理事は、今後の課題として診断基準の確立、不測の事態の予防策とリカバリー技術の習得、使用状況のモニタリング、治療システムのアップデートを挙げる。その上で、利用者に対し「知識や技術、経験を蓄積した術者の診療を受ける必要がある。ネットやSNSの広告に惑わされず、しっかりとした医療機関を選んでほしい」と注意喚起する。

治療を受ける際のポイントなどを話す日本臨床矯正歯科医会の佐藤國彦副会長(11月、都内)

 ◇安心治療のカギは?

 マウスピース矯正を安心して、かつ安全に受けるためのカギは何か。佐藤副会長はまず、ワイヤー矯正も選択できる医院の受診を呼び掛ける。「マウスピース矯正に適した症例なのか、(不測の事態が起きたときの)リカバリーをどうするかといった判断は、ワイヤーでの治療ができる歯科医でないと難しい」というのが理由だ。

 治療費をめぐる慎重な対応も要請する。矯正は基本的に自由診療で支払額がかさむため、トラブルがあったときの損害も大きくなりがち。そうした事態に陥らないよう、契約書を交わすまで装置発注費などが生じないことや、治療の進行に合わせた精算をどのような基準で行うかについて確認を促す。契約時には治療費の内訳に関する説明を求め、分割など支払い方法を検討する必要があると指摘する。

 さらに、同副会長は「治療に入ることをせかす診療所には気を付けよう」と強調する。患者自身の事前の心構えなどが大切と考えているためで、この観点からは、患者が決心するまで待てる医療機関を勧めている。(平満)

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