こちら診察室 歯の健康と治療

普及難しい歯内療法
~高コスト・低報酬で導入に二の足~ 【第4回】

 前回は「歯内療法」について、精密さが要求される専門性が高い治療法であることを説明しました。日本ではあまり知られていませんが、海外では専門領域として確立されており、米国では専門医が治療すると1本10万円の費用がかかります。これに対し、日本では保険診療で認められている半面、保険点数は極めて低く抑えられています。一般の歯科医院ではコストパフォーマンスが低過ぎる処置であると言っても過言ではありません。

写真1

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 ◇高級輸入車並み価格の機器も

 例えば、歯科衛生士が1時間かけて歯の掃除(メンテナンス)をする場合、その点数と比較すると約4分の1です。マイクロスコープ(写真1)の価格はおよそ高級輸入車1台分で、複雑な形態をした歯の中の治療に使うニッケルチタン製のファイルと言われる器具(写真2)は約2千~2万円、これを作動させるための特別なモーターが約30万円もします。

 しかもファイルに関しては、メーカーは1人の患者のみで使用するよう推奨しています。つまり1回治療に使ったら基本的には廃棄しなくてはならないのです。金属の繊細な性質に加え、前回述べたように人間の歯の根の中は大小さまざまに湾曲して複雑な形態をしており、これに追随するのに大きな負荷がかかるためです。

写真2

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 このように、高度な治療が行われる歯内療法は費用がかさみます。それにもかかわらず保険診療の点数配分が低いのは、保険点数が定められた当時の昭和の時代は、現在のように進化した治療法が確立される以前であり、歯の内部も詳細が不明のまま全ての歯科医師が手探りの歯内療法を実施していたからです。

 ◇保険診療の点数低く

 私が日本人で初めてマイクロスコープを使った治療法を米国で学んできたのが1993年で、現在までの30年間に歯内療法の手技は大きく進化しました。ただ、その進化は、欧米に肩を並べる専門性の高い治療が可能な専門医が突出してレベルを向上させたからに他ならず、一般の歯科医院にまで同治療法が浸透したわけではありません。

 専門性が高く困難な歯内療法の治療は、歯内療法専門医ではない一般の歯科医師にとっては、やりたくても簡単にできないのが現状です。しかも保険点数が低ければ、他の患者が多く来院する中、歯内療法にばかり時間をかけるわけにはいきません。このような背景から、通常の保険医療機関では早く抜歯をして、インプラント治療などに移行した方が収益につながるわけです。

 インプラント治療自体はすでに確立された治療法ですので、安全性を含め何ら問題がないことは言うまでもありません。しかし患者さんにすれば、いきなり「これはもう持たせることができないので抜歯してインプラントにしましょう。○○万円かかります」などど突然言われても、即座には納得できないでしょう。全ての歯科医師というわけではありませんが、そのような歯科医師が一定数存在しているのは事実です。

 ◇かかりつけ医に相談を

 専門性の高い治療を受ければ1本の歯の寿命を延ばせます。その期間がたとえ5年だとしても、その間に患者さん自身の考え方も変化します。より良い治療を受けるために、いろいろと考える時間的余裕が生まれます。歯の状態は10人の患者さんがいれば10通りの治療法があると言っても過言ではありません。かかりつけの歯科医師とよくご相談の上、専門性の高い治療を受けたい場合には、その旨をしっかりと伝えていただければと思います。全国には日本歯内療法学会に所属する専門医が数多くいますので、紹介してもらうことも可能かと思います。(了)

古澤成博教授

古澤成博教授


古澤成博(ふるさわ・まさひろ)
 東京歯科大学教授。
 1983年東京歯科大学卒業、87年同大大学院歯学研究科修了。同大歯科保存学第一講座助手、口腔健康臨床科学講座准教授などを経て2013年4月から同大歯内療法学講座主任教授。16年6月から水道橋病院保存科部長を兼務し、19年6月からは副病院長も務める。
 日本歯科保存学会専門医・指導医、日本歯内療法学会専門医・指導医、日本顕微鏡歯科学会認定医。これら3学会や日本総合歯科学会の理事を歴任。

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