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健康な歯、持ち続けるには
~「予防歯科」もっと知って~

 自分の歯が何本生えているか、すぐ答えられるだろうか。今まで抜いた歯の本数はどうか。意外と分からない自らの口腔(こうくう)環境を知り、その健康を守る「予防歯科」の重要性が広まり始めている。長年訴えてきた歯科医師や取り組む企業に話を聞いた。

「予防歯科に興味を持ってもらわないと来院、診察、治療ができない。関心がある人が調べて来院しているのが現状で、普及が課題」と畑医師

「予防歯科に興味を持ってもらわないと来院、診察、治療ができない。関心がある人が調べて来院しているのが現状で、普及が課題」と畑医師

 ◇28本、元気に残そう

 歯科治療といえば、悪くなった部分を削って詰めて終わり、と思われがち。一般社団法人日本オーラルフィジシャンフォーラムの理事長、畑慎太郎医師は、歯は全身の健康の土台と考え、親知らずを除いた全28本を、年を重ねても元気な状態で残すための治療を実践している。

 「患者さんには、まず口腔内や歯の状況を知ってもらう。そして、どうしたら改善できるか、良い状態を長く保てるかの情報を提供する」(畑医師)。

 口の中をあらゆる角度から撮影し、磨き残しや歯磨きしづらい場所を画像でチェック。歯間ブラシが適した部分やフロスが必要な箇所を具体的にアドバイスする。生活習慣や間食の回数といった行動についても細かく問診。患者は自分の歯の現状と合った道具を知り、セルフケアを学ぶ。この後、必要な治療やクリーニングが行われる。

 社会的地位も高く金銭的な余裕がある、80代の患者の歯がボロボロだったという。虫歯になれば「かかりつけの歯医者さん」に通い、治療を毎回しっかり受けたが、より良い状態にはしてくれなかった。それは修理だけで、継続的なメンテナンスではなかったからだ。畑医師は「予防に関心を持っているのに知らない人が多い。普及を進めたい」と話す。

虫歯・歯周病のなりやすさのチェックツール「デカゴン」。10項目のレーダーチャートで、リスクを可視化する

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 ◇社内向け啓発活動が社外へ

 社員の口腔・歯の健康を維持・増進するため、全社的に取り組む企業も出てきた。

 経済産業省が掲げる健康経営の一環として、富士通は予防歯科を重要視。歯科検診の充実、社内セミナーの開催、自社運営の歯科医院のリニューアルなど行ってきた。社員用アプリには、予防型歯科医院の検索機能を組み込んだ。

 取り組みの一つとして開発された「Fujitsu 予防歯科クラウドサービス」は、患者の意識付けを目的とした教育ツール。現在全国で約60の医院が利用中だ。

 健診や診察の結果を歯科医や歯科衛生士が入力すると、患者はスマートフォンやパソコンで気軽に自分の口腔情報を見ることができる。撮影した口内やレントゲンの画像、これまでの治療記録のほか、唾液の量や口のゆすぎ度など10項目の数値で評価した虫歯や歯周病のなりやすさについて、両者が共有する仕様だ。

デカゴンを見ながらアドバイスする医師。同サービスでは、今ある歯の本数、これまで治療済みの歯の本数や場所なども示される。歯の数の全国平均と比べたらどうか、などといった細かいことまで教えられる

デカゴンを見ながらアドバイスする医師。同サービスでは、今ある歯の本数、これまで治療済みの歯の本数や場所なども示される。歯の数の全国平均と比べたらどうか、などといった細かいことまで教えられる

 医師はこれら数値を見せながら「この項目を良くするにはこうするといい」と具体的なアドバイスができる。患者ががんばって取り組めば、表示された歯のキャラクターの顔が「泣き顔」から「にこにこ笑顔」に変化していく。自然と治療にやる気が出てくる。

 開発に携わった富士通Japan(ジャパン)ヘルスケア事業本部の今出みなみさんは「口の中の疾患は、さまざまな原因が重なって生じていることを分かりやすく示した。どうすれば歯の健康を自分事として捉えてもらえるか、これからも積極的に取り組みたい」と語る。

 監修は畑医師のほか、歯科先進国として有名なスウェーデンの大学の著名医師らが担当。エビデンスに基づいた教育コンテンツも提供している。

「患者指導をする時のコツやポイントは、経験を重ねて得るものだが、このツールは医療スタッフをサポートする上、日々の業務の中で教育的役割も果たしている」と福井医師

「患者指導をする時のコツやポイントは、経験を重ねて得るものだが、このツールは医療スタッフをサポートする上、日々の業務の中で教育的役割も果たしている」と福井医師

 ◇悪循環に陥る前に予防を

 さまざまなサイトやSNSで多くの情報が得られる中、どれが正しいか分からない、自分に合うか判断できないといったことが、歯に関してもある。

 富士通クリニックの福井雄二医師は、社員だけでなく地域住民も診察している。その中で実際にクラウドサービスを活用していて「行動を少し変えることで虫歯になりにくい口にできる。『何をすべきか』の部分は患者さんそれぞれ違う。まさに個別化医療、対話しながら二人三脚で進めていくのが予防歯科」と説く。

 クラウドサービスについて、富士通は将来的に、企業や、学校含めた行政主導の歯科検診の現場全般にも、利用範囲を広げたいと考えている。北海道神恵内村と共同で実証実験を行っており、同村の小中学生の校内検診を支援。自治体が予算をかけて実施している歯科検診の受診率が全国的に低水準であることが課題視されている中、親世代に対する検診にもつながることを期待する。

 近年、虫歯や歯周病の悪化が、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞糖尿病認知症などといった全身疾患と関連することも明らかになってきている。また、仕事のパフォーマンスに影響するというデータも示されており、企業の生産性低下につながる恐れもある。「予防型の歯科治療が、みんなの当たり前になればいい」と福井医師。畑医師も「自治体や医師会、企業の健康経営担当者とも連携していければ、もっと認知が広まるはず。クラウドサービスの普及はその第一歩」と話している。(柴崎裕加)

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