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自身のがんにショック
「がん専門医」中川恵一氏の体験記〔1〕

 私はがん治療専門医で、東大病院で34年間、放射線治療や緩和ケアの診療に携わってきました。同時に厚生労働省のがん対策推進協議会委員、文部科学省の「がん教育」の在り方に関する検討会委員などの公職も務めてきました。

 講演などでは、「日本人男性の3人に2人ががんになる時代です。がんになることを前提にした人生設計が必要なのです」などと話してきました。昨年10月末には、がんに関する著作を出版したところです。その2カ月後に自分ががんの治療を受けているのですから、皮肉とも言えます。

自身で腹部超音波エコー検査をする中川准教授

 ◇自分で検査、膀胱がん発見

 東大医学部の先輩の病院で、若いころから月に1回くらい週末に当直の仕事をしています。この病院に超音波エコーの検査装置があり、2018年12月9日に自分自身で膀胱(ぼうこう)のエコー検査をして、腫瘍を発見したのです。まさに、青天のへきれきでした。

 実は2年半ほど前に肝臓に脂肪がたまる脂肪肝を自分で発見して以来、毎月、エコー検査を自分でしていました。アルコールの飲み過ぎのせいだと思いますが、肝臓の静脈付近にだけ脂肪がたまる「まだら脂肪肝」でした。お酒を控えると脂肪肝は良くなっていたのですが、膀胱の壁が多少厚く見えたのが気になりました。検査当日には、画像が鮮明になるように膀胱に十分尿をためて入念にチェックしました。

 すると、左の尿管が膀胱につながる「尿管口」の近くに15ミリ程度の腫瘍が見つかりました。すぐに家族に「膀胱がんになった」と電話したのを覚えています。当然のことかもしれませんが、家族は私以上に動揺していました。

エコー画像で発見した、突起状の腫瘍(右部分)

 ◇がんとの確定診断

 スマートフォンでこのエコー検査の画像を撮影して後輩の泌尿器科専門医にメールで送信しました。「膀胱がんの可能性が否定できない」との返事を受けました。今振り返ってみれば、一種の「リップサービス」だったと思います。そのメールにはがんではない可能性についても触れられていましたから。人間は弱いものです。内視鏡検査をするまで、がんではないような気になっていました。家族にも「がんではないようだ」と電話もしてしまいました。

 しかし、翌日の朝にその後輩医師に膀胱内視鏡検査をお願いしたところ、膀胱がんという診断がほぼ確定したという経緯です。内視鏡の画像は、疑いようのなく粘膜の比較的浅い場所にある膀胱がんでした。早期のがんで、内視鏡手術で切除できるとはいえ、正直、とてもショックでした。そもそも、生物は自分の病気や死を意識しないようにプログラムされているように思います。

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