女性アスリート健康支援委員会 宮嶋泰子、女性アスリートを大いに語る

「出産後の子どものケアは誰が」
~遅れている日本の社会環境~ ―女性トップ選手の苦心・奮闘を密着取材 宮嶋泰子氏―(2)

 ◇男性指導者は女性の体を理解し、シャペロンの役をつくる

 ―女性アスリートの悩みや女性特有の悩みに目配りすることができるよう、男性指導者に言いたいことはありますか。

 「もちろん男性指導者に勉強していただくことは基本として大切ですけれども、本当はシャペロンみたいな役割、心理的なことと女性の体を理解して、両方が分かる方がチームにいてくれたらすごくいいなと思います。マラソンの指導者として活躍している山下佐知子さんが言っていました。『女性の身体のコンディション等については、自分自身でも分かるから、常に選手にコンディションを聞いて、体調や体温のチェックをしながらトレーニングを考えています。その辺がきっちりできているから、月経等によって選手のパフォーマンスが落ちるのもよく分かります』と。女性監督には女性監督の良さがあるなと、すごく思います」

シドニー五輪女子マラソン優勝から一夜明け、記者会見で金メダルを小出義雄監督(右)にかける高橋尚子さん

シドニー五輪女子マラソン優勝から一夜明け、記者会見で金メダルを小出義雄監督(右)にかける高橋尚子さん

 川原会長 女子マラソンの高橋尚子さんを育てた小出義雄さんはどうでしたか。

 「小出さんは女性特有のことをも平気で言っちゃう方でした。他の方が言ったらセクハラになるような言葉も平気で『お前何だそれは。何か出ているぞ』みたいに。それは、そういう環境を日頃からつくっているからいいのであって、そういうのが嫌な選手も当然いると思います。オープンにすることを自分で話せるのであれば、全然問題はありませんが」

 ―小出さんのケースはまれで、なかなか難しいですね。

 「昔のことですが、長谷川健太さんがサッカーの女子チームを指導していたときに、生理用のパッドの話が出たそうです。『おれ、嫌だよこんなの』と、自分の中で抵抗感があったと言っていました。さらにその話を奥さんに言ったら、奥さんから『あなた、そんなことを話しているの』と怒られたそうで、奥さんにもまだ理解がなかったのかなと感じました。若い女子の監督を男性がする場合には、いろんな問題を含めて見なきゃいけないという常識がまだ世の中にないのかな。日本ですと生理の話をするのはタブーですが、米国だとタブーではないし、その違いを感じます」

大いに語る宮嶋さん

大いに語る宮嶋さん

 ―そこは日本と欧米との文化の違いでしょうか。

 「私たちは女性スポーツ勉強会などで、女性の身体のこととか、『こういうことがあるから男性の指導者は知っておいてくださいね』とか、『女性の指導者も知っておいてくださいね』と言います。しかし、順天堂大学の小笠原悦子教授がおっしゃっていましたが、米国で行うコーチ向けの勉強会では、そういうことは全然やらないそうです。いかにリーダーシップをとるかといった、男性が管理職研修でやるような勉強はするけど、そんなフィジカルな女性の身体の特徴についてはやらないそうです。『えっ、何でですか』と聞いたら、『そんなことは当たり前だから』と言っていました」

 ―日本では小学校、中学校の段階で女性の生理とかをきっちり教えていないことも原因になっているのでは。

 「先日ニュースで、男の子がパッドに青いインクをたらして、こんなに吸収できるという実験をやっていました。素晴らしい実験ではあるのですが、ニュースになること自体がおかしく、日本はまだそういうレベルなのですね」(了)

 宮嶋泰子(みやじま・やすこ) テレビ朝日にアナウンサーとして入社後、スポーツキャスターを務め、スポーツ中継の実況やリポート、ニュースステーションや報道ステーションのスポーツディレクター兼リポーターとして活躍。 1980年のモスクワ大会から平昌大会まで五輪での現地取材は19回に上る。2016年に日本オリンピック委員会(JOC)の「女性スポーツ賞」を受賞。文部科学省中央教育審議会スポーツ青少年分科会委員や日本スポーツ協会総合型地域スポーツクラブ育成委員会委員、JOC広報部会副部会長など多くの役職を歴任。20年1月にテレビ朝日を退社、一般社団法人カルティベータ代表理事となる。

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