女性アスリート健康支援委員会 宮嶋泰子、女性アスリートを大いに語る
トップ選手に多い生理不順
~「アスリートこそ定期的に婦人科でチェックを」~ ―女性トップ選手の苦心・奮闘を密着取材 宮嶋泰子氏―(3)
テレビ朝日でアナウンサー、キャスター、ディレクターとしてスポーツ報道やニュース番組で活躍し、計19回の五輪現場取材を通じて多くの内外有力選手を密着取材してきた宮嶋泰子さん(一般社団法人カルティベータ代表理事)に、女性特有の悩みを抱えながらも世界の頂点を目指してトレーニングに励んだ女子トップ選手の知られざる苦心・奮闘ぶりを語っていただきました。スポーツドクターの先駆けとして長年活動され、国立スポーツ科学センター長なども歴任された「一般社団法人女性アスリート健康支援委員会」の川原貴会長にオブザーバーとして参加していただきました。
―宮嶋さんは、1980年モスクワ五輪から2018年平昌五輪まで19回も五輪を取材されました。この間、アスリートを密着取材されて多くの選手と接してこられました。女性特有の部分を含めて印象に残った選手を教えてください。
アルベールビル五輪 スピードスケート女子1500メートルで3位に入り、冬季五輪史上日本女子初のメダルを獲得した橋本聖子さん
「橋本聖子さんですが、92年のアルベールビル冬季五輪のことです。五輪前にインスブルックで合宿をしていて、急に生理になりました。お腹が痛くて、海老反りするくらい、たまらなく痛かったそうです。アスリートって体脂肪が少ないし、どちらかというと生理が不順な人が多く、正常な人は少ないです。そういう中で、『また、いつものか』『アスリートは生理不順で当たり前』みたいに言われているから、婦人科に行かなくなります。橋本さんの、あの状況を見ると、アスリートこそ定期的にきちっと婦人科に行ってチェックしないといけないと感じました」
―その点について川原会長はご専門だと思いますが、いかがでしょう。
川原会長 生理の時、月経困難症となった際に、ベースにいろんな病気がある場合もあるので、月経困難症が強い場合は受診した方がいいですね。病気がないかどうかを確認し、ひどい場合は対症療法があります。ホルモン剤を飲んだりします。特に何か病気がある場合は継続的に飲んだりもします。
◇ピルはドーピング対象外
―日本では、トップアスリートは周りからの教育がしっかりしていないので、例えば、鎮痛剤とかピルとかを避けがちになることがあります。
「ピルって、みんなドーピング(禁止薬物使用)だと思っているんです。ピルで月経周期や痛みをコントロールできるのに、それを知らずに損した選手や苦しんだ選手がたくさんいます」
―男性指導者が多いから、そういったことをきっちり教えられないようですね。
「88年カルガリー冬季五輪のショートトラックの金メダリスト、獅子井英子さんですが、彼女はあの時、ピルを飲んでいました。やはり、その人の考え方や、しっかりコントロールしたいとか、そういう個人の考え方があるんだろうなと思います」
取材を受ける宮嶋さん
◇NFに求められる女性医師の多用
―獅子井選手はまれなケースで、NF(国内各競技団体)の女性選手に対する支援体制が日本では立ち遅れていると思いますが。
「そもそもNFには女性の理事が少ないです。でもヨット協会は、とても早い段階で国体のヨット大会には託児システムをつくり、ベビーシッターも用意しています。その提案をされたのは女性の理事です。それで、お子さんがいらっしゃる選手も参加できるようになりました。女性と男性とでは発想が違います。男性が女性の立場になって考えられることは少なく、女性選手への支援体制について的確な提言は思いつかないようです」
川原会長 この女性支援委員会のインタビューでスピードスケート選手を掲載しました。スケート連盟は指導者や選手にしっかり教育し、女性支援に対応できる仕組みをしっかり整えているとのことでした。
「スケート連盟では、派遣する帯同医師に女性がいらっしゃいました。そういう女性ドクターが選手からいろいろ相談を受けています。やはり女性が医師だと、女性選手は相談しやすいはずです。反対に、日本陸連は女子委員会を無くしてしまいました。国際陸連(現世界陸連)の女子委員会に入られていた田中良子先生が怒っていらっしゃいました。日本女子初の五輪金メダリストの人見絹枝さんは早世(24歳)されたのですが、亡くなる直前まで、『女性には女性のトレーニングがある。女性の身体は男性と違うので、(生理の)サイクルも含めていろいろと対応しないといけない』と言っていたと伺いました。人見絹枝さんは、女性の強化システムをつくるというのを目標に掲げながら、早くに亡くなってしまいました。女性が女性の選手を育てられるようなシステムの必要性を、人見絹枝さんが言っていた時代から、もうすぐ100年ですよ」
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