女性アスリート健康支援委員会 宮嶋泰子、女性アスリートを大いに語る

男女同一種目が増える過程で起こった女性の摂食障害 ―女性トップ選手の苦心・奮闘を密着取材 宮嶋泰子氏―(5)

 テレビ朝日でアナウンサー、キャスター、ディレクターとしてスポーツ報道やニュース番組で活躍し、計19回の五輪現場取材を通じて多くの内外有力選手を密着取材してきた宮嶋泰子さん(一般社団法人カルティベータ代表理事)に、女性特有の悩みを抱えながらも世界の頂点を目指してトレーニングに励んだ女子トップ選手の知られざる苦心・奮闘ぶりを語っていただきました。スポーツドクターの先駆けとして長年活動され、国立スポーツ科学センター長なども歴任された「一般社団法人女性アスリート健康支援委員会」の川原貴会長にオブザーバーとして参加していただきました。

シドニー五輪・日本選手団の川原医務担当本部役員(当時)

 川原会長 私は1976年に医学部を卒業し、モントリオール五輪以降の宮嶋さんと同じ時期にスポーツに関わってきました。宮嶋さんのお話を伺っていて、聞く話それぞれが、その時々に一致します。79年に東京国際女子マラソンが初めて開催され、『女性がマラソンをやっていいのか』という声がありました。あの大会は世界で初めてでしたので、「医学的にいいのか」という意見も出ていました。

 「第1回大会が成功したから84年のロサンゼルス五輪で女子マラソンが採用されました」

 川原会長 その当時、日本陸連でマラソンの影響を検証するというので、マラソンの前後で心臓や血液、尿とかいろんな測定をしました。その結果、「女性でも医学的に問題ない」とのリポートが出ました。その際に私も動員されました。

ロサンゼルス五輪・陸上女子マラソン。入場する増田明美さん(左から2人目)と佐々木七恵さん(同3人目)

 「28年アムステルダム五輪で初めて採用された女子800メートルの決勝ですが、銀メダルを獲得した人見絹枝さんをはじめ、出場選手みんながバタバタ倒れてしまい、『女性は200メートルまで、それより長い距離はダメ』と言われました。その後、徐々にですが女性も長い距離になっていきました。佐々木七恵さんは、大学で3000メートルをやっていて、当時それよりも長い距離の種目はなかったのですが、急にマラソンをやることになりました。そこで、陸連が初めて女子マラソン合宿をやって、ジョガー出身者と佐々木七恵さんら、トラックの長距離選手が一緒になって10人くらいで合宿をしたことがありました。今では考えられないような面白い合宿でしたね」

 川原会長 男女種目を一緒にする流れが出て、それが拡大してくる過程で、マラソンが入ってきて、月経とかが問題となりました。体操の競技内容が変わったように、いろんな競技が男女同じ種目をやる方向に拡大していく過程で、女性の摂食障害とかの問題も起きてきています。その辺をずっと眺めてきたという感想を持ちます。

 「摂食障害について、川原会長に当時取材させていただいたときに、非常に精神的なサイコロジカルなところが影響するとおっしゃっていました」

 川原会長 私は76年からスポーツ診療所で診察していたんですが、初めて摂食障害の事例がありました。その後どんどん出てきて、特に陸上界は市民ジョガーから世界のトップのレベルまで広がりを見せました。世界のレベルに行く過程で、あちこちで摂食障害が起こりました」

 ◇実業団同士の戦いが生んだ女子選手の摂食障害

北京五輪・新体操団体予選のロープ種目で演技する日本チーム AFP=時事

 ―日本の女性アスリートが力を付けて世界の舞台で戦えるようになったから、摂食障害のような問題が増えたということでしょうか。

 「やはり実業団同士の戦いがあって、そこで重い荷物(体重)を運ぶよりは軽くした方がいいし、きついトレーニングで何十キロも走るよりは体重を軽くした方がトレーニングも楽になるから、食べなくなる選手が増えたと思います」

 川原会長 やはり、男性指導者が医学的にどういう問題が起こるか知らないから、あちこちで摂食障害等の問題が起こるし、陸上だけでなくトライアスロン、自転車、体操とかでも摂食障害の例が増えています。

 「新体操でも、かつては歯を見たら分かりました。インタビューするときに歯を見ると、みんな酸で溶けて黄色になっていました。この選手は食べた後に戻しているなと思いました。今でこそルールの変更で脚力が求められるようになり、筋肉も必要になってきて体が大きい選手が多くなっていますが、昔の選手は小さくて細くて歯が黄色かったですね」

2020年全国高校駅伝・女子1区で力走する各校の選手たち

 川原会長 トップレベルの選手は少しずつ分かってきていますが、なかなか下までは…。特に中高生が理解できていません。女性は体が成長する過程で、骨ができるのが20歳くらいですので、中高生の時が一番大事です。その時期に無月経になってしまうと、体がもろくなって多少走れても長続きしません。その段階でそうなった選手は、なかなかトップにはいけません。実業団に入っても、体ができていないから負荷がかかり過ぎて故障してしまいます。

 ―特に高校の男性指導者の方は、そういう認識を持っていませんね。

 川原会長 特に高校の女子駅伝ですね。

 「高校女子駅伝の上位に入るような学校の選手には、身体の皮膚の色が茶色くて、フェリチン(鉄剤注射)をやって人工的に元気にしているのが分かる選手もいます。そういう対策はNFごとにやってもいいと思います。婦人科の先生がけっこういらっしゃるし、競技特性もあるのでNFごとに毎年やったらいいのではないでしょうか」(了)

 宮嶋泰子(みやじま・やすこ) テレビ朝日にアナウンサーとして入社後、スポーツキャスターを務め、スポーツ中継の実況やリポート、ニュースステーションや報道ステーションのスポーツディレクター兼リポーターとして活躍。 1980年のモスクワ大会から平昌大会まで五輪での現地取材は19回に上る。2016年に日本オリンピック委員会(JOC)の「女性スポーツ賞」を受賞。文部科学省中央教育審議会スポーツ青少年分科会委員や日本スポーツ協会総合型地域スポーツクラブ育成委員会委員、JOC広報部会副部会長など多くの役職を歴任。20年1月にテレビ朝日を退社、一般社団法人カルティベータ代表理事となる。

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