「医」の最前線 乳がんを書く

なかなか手ごわい治療
~早期発見でも温存できず?~ (医療ジャーナリスト 中山あゆみ)【第3回】

 2020年10月6日、乳腺専門クリニックで、がん告知を受けた翌朝、私は手術を受ける都内の総合病院の待合室にいた。時間的に余裕のない生活を送っていたこともあり、予定変更を最小限にするために、一刻も早くスケジュールを決めたかった。

 検診を受けた乳腺専門クリニックでの組織検査の結果、右乳房のしこりの大きさは1.5cm、ホルモン受容体陽性乳がん(「ルミナールA」)という、乳がんの中では最も患者が多く、タチの良いタイプであることが分かっていた。

乳がんのタイプ

 ◇乳がんにはタイプがある

 乳がんには、がんの広がり具合で決める進行期とは別に、がんの性質の違いによって五つのタイプがあり、それによって治療方針が大きく異なる。

 私の友人は、毎年受けていた人間ドックで大きさ1センチの小さなしこりを早期発見できた。しかし、タイプが最も再発率が高く、再発すると急速に進行するリスクの高い、「トリプルネガティブ乳がん(TNBC)」だった。このため、乳房温存手術、放射線治療、抗がん剤治療というハードな治療をフルコースで受ける必要があった。発見が遅ければ命を落とすところだったかもしれない。術後7年、すっかり元気になった彼女を見ていると、やはり早期発見がいかに重要であるかが分かる。

 私のタイプは「ルミナールA」だと分かっていたので、少しは安心できたのだが、やはり、最終的な治療方針が決まるまでは不安で仕方がなかった。診察待合室のモニターに私の患者番号が映し出されると、心臓がバクバクして、口の中がカラカラに渇いた。

 この日、夫も病院に来ると言ってくれたが、仕事が忙しいのは分かっていたし、何より自分の方が知識があるのだから、すべて自分で決められると思って一人で行った。

 乳腺クリニックの医師から、がんはまだしこりの一部にできたばかりの小さなもので、最小限の手術になるはずだと説明されていた。早期発見を疑わなかった私は「さっさと切って、さっさと元の生活に戻ろう」と軽く考えていた。

 身体にできたデキモノを切るくらいの気持ちだった。実際、私自身も「乳がんは早期発見なら怖くない」という趣旨の記事をたくさん書いてきた。小さなしこりを自分で見つけ、簡単な手術だけで治療は終わり、傷痕もほとんど分からないという患者さんの声も何度となく紹介してきた。検診も自己触診も欠かさず続けてきて、早期発見のために自分でできることはやってきたつもりだった。

 ◇標準治療と最新の治療

 告知を受けて、すぐに「切るしかない」と思ったのは、標準治療では、遠隔転移がなければ手術によって根治を目指すことが基本だと分かっていたからだ。手術できる状態であれば、まずは手術、しこりが大きい場合などは、術前に化学療法を行って、がんを縮小させてから手術する場合もある。

 乳房を切除することになんの抵抗も感じないという人はいないだろう。そうした女性心理にアピールするような民間療法が無数にあって、選択を誤るケースがあるのは残念なことだ。

 標準というと、松竹梅の竹に当たり、もっと良い治療法があるのではないかと誤解されがちだが、数多くのデータを積み重ね、現在行える最新の治療が標準治療なのだ。

 ◇早期発見なら温存できるとは限らない

 しこりの大きさが1.5センチなら、乳房温存手術になるだろうと予測した。しかし、早期発見なら乳房を残せるかというと、必ずしもそうではない。超早期の0期でも、乳房の広範囲にがんが広がっている場合があり、その場合は全摘手術が必要になる。

 また、しこりが小さくて全摘せずに温存したとしても、がんの場所やその人の乳房の大きさ、形によっては乳房が変形してしまう場合もある。無理に温存した結果、ひしゃげたような乳房が残ってしまい、再手術を希望する女性が形成外科に駆け込むケースが少なからずある例を取材したことがある。

ワークスペースもあり、快適な4人部屋の病室

 ◇手術だけで終わるのは、ごくわずか

 温存手術を行った場合、残した乳房にがんが発症するのを防ぐために放射線治療が不可欠となる。これが実際に受けてみると、そう簡単ではない。その体験は後に詳しく紹介する。

 乳がんは遠隔転移がなければ手術が基本とはいえ、手術だけで治療を終えられる可能性が高いのは0期の非浸潤がんだけだ。ほとんどの場合、何らかの治療を術前あるいは術後に行うことになる。

 また、術後の検査でがんの取り残しがあった場合、再手術が必要となり、また化学療法が追加で必要になることもある。いったん手術を終えたのに、さらにまた手術ということが実際には起こり得る。

 このように、治療の全体像は、手術後の病理検査の結果を見て初めて確定するため、その結果が出るまでは落ち着かない気持ちで待つことになる。

 手術が終わると次の薬物療法としてホルモン療法(5~10年)、化学療法(抗がん剤)、分子標的治療がある。どれを使うかは、乳がんのタイプによって異なり、治療はそれぞれのタイプに応じた個別化治療となる。

 多くの場合、手術後の痛みを乗り越えたところに、畳み掛けるように次の治療が始まる。手術にさまざまな治療法を組み合わせる集学的治療が進んできたおかげで、がんは不治の病ではなくなってきた。しかし、実際にそれを受ける側になると、とても負担が大きい。私が経験したのは乳房温存手術、放射線療法、ホルモン療法だが、それだけでも実際に経験すると想像をはるかに超える大変さがあった。

 やはり、がんはほっておけば死に至る病であることに変わりはない。治療で命が救われることに感謝して、一つひとつ乗り越えていく覚悟が必要だ。(了)

中山あゆみ

 【中山あゆみ】

 ジャーナリスト。明治大学卒業後、医療関係の新聞社で、医療行政、地域医療等の取材に携わったのち、フリーに。新聞、雑誌、Webに医学、医療、健康問題に関する解説記事やルポルタージュ、人物インタビューなど幅広い内容の記事を執筆している。
時事メディカルに連載した「一流に学ぶ」シリーズのうち、『難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏(第4回・5回)』が、平成30年度獨協大学医学部入学試験の小論文試験問題に採用される。著書に『病院で死なないという選択』(集英社新書)などがある。
医学ジャーナリスト協会会員。

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