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婦人科領域のオンライン診療
~官民連携で「フェムテック」推進~ インタビュー 石井健一・ネクイノ代表取締役に聞く

 女性特有の健康の悩みを最新技術を生かして解決する「フェムテック」。国会では議員連盟が発足し、企業からの関心も高まりつつある。婦人科領域のオンライン診察アプリを運営する医療ベンチャー「ネクイノ」(大阪市)の石井健一代表取締役(42)は、地方自治体との官民連携による施策を展開。学校現場での性に関する課題解決にも着手している。[聞き手=時事通信大阪支社 中嶋泰郁 記者]

石井健一代表取締役

 ──フェムテックとは何か。

 幾つか定義があるが、生物学的な女性の健康や心のトラブルに対してテクノロジーを通じて解決していくこと全般を示す言葉として考えている。心が男性の人やアセクシュアル(無性愛者)の人もおり、生物学的な女性ということが大事だ。

 ──最近注目が高まっている背景は。

 世界規模で注目されており、文化的な部分と技術的な部分がある。まずはデバイスの急速な普及が大きい。例えば、圧をかけなくてもよい血圧計が急速に出てきたのと同じように、少し前なら乳がんもマンモグラフィー(乳房X線撮影)やエコーを当てなければ診られなかったものが、そうではないデバイスが登場してきた。

 また、日本は人口減少社会で働き手が不足し、従来は男性だけで社会をつくろうとしてきたが、絶対数がいよいよ足りなくなった。生物学的な女性がハンディを背負ってきたのを支えることで社会を形成しようというのが、国内でも文化として醸成されつつあると考えている。

 ──社としてフェムテック分野に力を入れている背景は。

 もともとは医療全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指している会社だ。医療はテクノロジーの発達に比べると、構造的に効率の悪いやり方がある。ここを組み替えて新しい医療の形をつくっていくというのがミッション。特にインフラや課題解決が追い付いていない婦人科医療や性の問題を入り口として始めた。

 ──フェムテック関連企業の代表を男性が務めていることに対する反響は。

 女性が代表の方が違和感がないかもしれないが、男性であることのアドバンテージがある。制度を決める人たちの多くは男性だが、課題を訴えているのは生物学的な女性が多い。そうした訴えを僕が一緒に考えると、男性にも分かりやすい形に置き換えることができる。フェムテック議連のような取り組みでも、制度をつくってきた人たちの気持ちが分からないと、課題を解決したい人たちの気持ちと擦り合わない。

 ──具体的な事業展開は。

 医療のDXでは三つの事業領域を置いており、診察・検査・IDが綿密にデジタル化してつながっていくことが必要だと思っている。診察のデジタル化の一つの表現が、婦人科領域のオンライン診察アプリ「スマルナ」だ。患者がスマートフォンのシステムの中で医者の診察を受け、経口避妊薬(ピル)の処方が行われれば、医療機関から患者に薬が届く。医薬品卸の免許を持ち、薬の卸売りでマネタイズしている。

 日本では病院でピルをもらうという体験が欧米に比べて標準化されていない。産婦人科医の絶対数が少ない上、産婦人科の門をくぐるのは、若い女性にとってはハードルが高いそうだ。そうしたアクセスへの心理的、物理的な障害を解消できるメリットがある。

 また、周りにピルを飲んでいる人がいないので適切な情報を得にくい。スマルナの中には薬や疾患のことを知ったり、医療相談できたりする仕組みがある。あるべき知識に結び付き、医療に橋を架けることができる。

 ──フェムテック分野で自治体と連携する意義は。

 何かが起こった場合、基本的な経済の仕組みの中では救えないような領域にもきちんと根を張ってカバーできるのは自治体しかない。まさにフェムテックの領域は急速にニーズと解決策が分かってきたこと。自治体が自主的に解決策までたどり着くことはできない。そこに民間企業が入って課題が明確になり、一緒に解決できれば、産業をつくることができる。俯瞰(ふかん)で見たときには、マーケティングになっている。

 ──具体的な連携の事例は。

 昨年の一度目の緊急事態宣言が始まった時期に宮崎県延岡市と組んだのが最初だ。医療ベンチャーとして、産科領域での医療崩壊が大きな課題だと考えた。大病院ではなく、民間の産科診療所に新型コロナウイルスの患者が行ってしまうと、当時では2週間の営業停止となり、妊婦を他の病院に運ばなくてはならなかった。

 そうしたことを防ぐため、体調に不安がある妊婦は最初にスマルナでオンライン医療相談をしてもらい、かかりつけの医師とどのようにコミュニケーションすればいいのか一緒に考えるというサービスを立ち上げた。山梨県大月市でも同様の仕組みを導入した。現在も少しずつ稼働している。

 ──自治体からの反応は。

 当初、そんな課題があるとは思っていなかったという反応だった。医師会と自治体がコミュニケーションを取っていたとしても、産科医師は絶対数が少ないため、自治体が課題として把握するのに時間がかかってしまっていた。

不破高校ではオンライン保健室の案内を、自由に使える整理用品とともに5月から個室トイレに設置する(ネクイノ提供)

 ──「オンライン保健室」と称し、学校現場でも取り組みを始めた。

 岐阜県垂井町での話だ。まずは災害時の連携協定を結んだ。災害現場での性被害といった話があるほか、若い女性に婦人科系の疾患があっても、重症でない場合は後回しになってしまいがちだ。周囲に医師がいても、専門外であったり、患者が声を上げにくかったりするといった理由で医療が始まらない。そこにスマルナで医師とコミュニケーションができる仕組みを導入した。

 その後、県立不破高校の校長から、学校の中でも同じような問題が起きており、相談窓口をつくってほしいとの話があった。年間数人が妊娠して学校を辞め、スポーツのし過ぎで生理が止まってしまうような生徒もいるという。そこで、スマルナの医療相談機能を生徒用に割り当てた。ブラウザで専用URLにアクセスし、学生証で本人確認をした後に、チャットベースでやりとりをしてもらう仕組みだ。学校には、個人情報を外してどんな問い合わせがあったかをフィードバックする。

大阪市福島区の商業施設内に設置したユースクリニック。医師の診察に加え、助産師や薬剤師が無料相談を受け付ける(同社提供)

 ──課題は。

 稼働が全くなく、どう認知してもらうか悩んでいるところだ。というのも、18歳以上を対象としたスマルナのサービスには毎日数百件の相談が来ており、17歳のニーズがゼロなわけがない。うまくいけば横展開は速いだろう。

 ──教育分野への思い入れは。

 スマルナでは二十数歳の女性にフォーカスが当たっているが、より若い世代に予防の意味での医療的な知識が届いていない。そこをやらないといけないと思い、「ユースクリニック」というコンセプトも提案している。北欧にある12〜25歳を対象としたクリニックをモデルに、大阪市内で立ち上げた。性に関して不安や気になることがあるときにふらっと来られる場所を目指している。(時事通信社「厚生福祉」2021年6月1日号より転載)

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