治療・予防

乳がん術後の慢性的な痛み
薬による適切な治療で軽減(横浜市立大学付属市民総合医療センターペインクリニック内科 小島圭子医師)

 乳がんで乳房を切除した後、手術側の胸や脇の下、上腕にヒリヒリするような痛みが長期間続く場合、「乳房切除後疼痛(とうつう)症候群(PMPS)」の可能性が高い。早期に治療すれば改善することが多いため、早めに主治医や看護師に相談してほしい。

乳房切除術後の慢性痛の程度と影響

乳房切除術後の慢性痛の程度と影響

 ▽ヒリヒリする痛み

 女性が罹患(りかん)するがんの中で最も多い乳がん。国内では、発症年齢のピークが50歳前後と欧米より若いこともあり、術後の生活が長い。そのため、術後に生じる合併症を上手にコントロールすることがより重要になる。

 PMPSは、乳房の切除術後に高い頻度で起こる合併症の一つだ。横浜市立大学付属市民総合医療センターペインクリニック内科の小島圭子医師は「手術した乳房側の胸部から脇の下、上腕にかけて、やけどをした時のような、ヒリヒリ、チリチリ、ビリビリするような痛みを感じます。痛みがある部位に触れたり、衣服でこすれたりすると痛みが強くなることもあります。痛みに加え、患部が硬い、何か挟まっている感じ、ザワザワするなどの違和感を持つ人もいます」と説明する。こうした症状が術後3カ月以上続く場合はPMPSと考えられ、乳房温存術後でも起こることがあるという。

 ▽市販の鎮痛薬に効果なし

 小島医師によると、乳房の切除術後に慢性的な痛みを感じている人は、術後3年で65%との報告がある。別の調査では、術後約9年でも21%が慢性痛を有し、その43%が強度または中程度の痛みがあり、23%は日常生活に影響があると回答していた。

 PMPSの主な原因は、乳房やリンパ節を切除する際に近くにある細い神経を傷つけることによる末梢神経障害と考えられている。そのため、治療には「神経障害性疼痛の治療薬として勧められている抗うつ薬やプレガバリンなどを使うことが多いのです。ロキソニンなどの市販の消炎鎮痛薬に効果はありません」と説明する。

 抗うつ薬を用いる場合には、「乳がんの治療で服用するホルモン剤の効果を弱めてしまうことがあるため慎重に薬を選びます。肩など他の部位の神経以外の痛みを伴う場合は、トラマドールを使うこともあります」と小島医師。

 患者の状態や症状に合った薬を適切に飲み続けることで痛みが軽減する場合が多いため、小島医師は「我慢せず、諦めないでほしい」と呼び掛ける。一方、乳がんの再発によって痛みが起こる例もある。「再発を見逃さないためにも、痛みがあれば一人で悩まず、できるだけ早く通院している医療機関の医師や看護師に相談しましょう」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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