「医」の最前線 行動する法医学者の記録簿

法医学会が初の学生向けセミナー開催
~社会的ニーズ紹介、将来の人材確保へ~ 【第8回(上)】

 日本法医学会(神田芳郎理事長)は8月に横浜市立大学医学部で「学生のための法医学セミナー」を初めて開催した。法医学の社会的な役割やキャリアパスなどについて学生に理解を深めてもらい、将来の人材確保につなげていくのが狙いだ。

横浜市立大学医学部で開催された日本法医学会の「学生のための法医学セミナー」。冒頭、世話人の井濱容子・同大教授があいさつした=2024年8月24日、横浜市【時事通信社】

 セミナーは2日間開催され、医学科学生のほか、臨床検査科や歯学系、薬学系の学生ら約70人が参加した。冒頭、世話人の井濱容子・同大教授は「法医学のことを知ってほしいというのが一番の目的。もう一つは、法医学に興味を持っている学生がこんなに集まる機会はないので、お互い何を考えているか、交流してもらえたらうれしい」と述べた。

 司会は法医学会の庶務委員長を務める池松和哉・長崎大学医学部長が担当した。初日の模様を2回にわたり紹介する。

 ◇公衆衛生の向上と市民生活の安全

 最初のセッションは「法医学の社会ニーズについて」をテーマに4人の教授が登壇した。

「社会医学としての法医学」と題して講演する神田芳郎理事長(久留米大学教授)=2024年8月24日、横浜市【時事通信社】

 神田芳郎理事長(久留米大学教授)

 法医学は、法律に関わる医学的諸問題を広く取り扱い、医学的および自然科学的に公正に判断を下していく学問だ。その対象は人体で、生体を扱うこともあるし、一番多いのが亡くなった人。これは検案とか解剖になる。他に物体を調べたりすることもある。位置付けとしては、応用医学の中の社会医学にくくられる。

 日本の法医学が始まったのは旧東京帝国大学で、1889年に裁判医学教室を開設。91年に法医学教室に改名され、現在では全国82医学部・医科大学の全てに法医学教室がある。

 法医学は死因究明をメインとする学問ということになる。2020年に死因究明等推進基本法が施行されたが、この法律で死因究明とは、死因を究明することだけでなく、身元を特定することも含まれると述べられている。

 また、何が法医学の役割かというと、公衆衛生の向上・増進と市民生活の安全。いかに安全に生活してもらうかを目的としている。

 今後、日本では高齢化が進み、亡くなる方が増えるので、法医学の役割はますます重要になる。一方で、法医学の現場は人員が足りないというのが現状。(19年度の全国まとめで)法医学教室の常勤医師1人当たりの解剖件数は82件と非常にハードな状況になっている。

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