「医」の最前線 行動する法医学者の記録簿

法医学会が初の学生向けセミナー開催
~社会的ニーズ紹介、将来の人材確保へ~ 【第8回(上)】

                                   

 ◇死因究明の強化はなぜ必要か

「『死因究明』ってなぜ大切?」と題して講演する佐藤貴子・大阪医科薬科大学教授=2024年8月24日、横浜市【時事通信社】

「『死因究明』ってなぜ大切?」と題して講演する佐藤貴子・大阪医科薬科大学教授=2024年8月24日、横浜市【時事通信社】

 佐藤貴子・大阪医科薬科大学教授

 「死因究明」はなぜ大事なのか。日本では年間150万~160万人くらいが亡くなる中、解剖に付されるのは10~11%。それしかできていない現状がある。死因統計を見ると、1番は悪性新生物(腫瘍)、2番は心疾患だが、その次に最近、急激な伸びを見せているのが老衰。この伸びは一体どういうことか皆さんに考えてほしい。

 心疾患は一時激減してその後復活しているが、この激減は死亡診断書(の死亡原因欄)に「心不全」と書かないようにと厚生労働省から指針が示されたことによる。

 国会議員が作ったスライドをお借りして、皆さんにお見せするが、結論から言うと、解剖をちゃんとすると病死が減るというようなことを言っておられる。すなわち解剖をしっかり行うということは、情報量が増えるので死因の正確性を上げる。そうすると、病死が減ってくるという恐ろしい話だ。

佐藤貴子・大阪医科薬科大学教授が示したスライド。正しい死因究明には各分野のエキスパートの協力が必要と述べた=2024年8月24日、横浜市【時事通信社】

佐藤貴子・大阪医科薬科大学教授が示したスライド。正しい死因究明には各分野のエキスパートの協力が必要と述べた=2024年8月24日、横浜市【時事通信社】

 有名な事件だが、2007年に大相撲時津風部屋の若い力士が亡くなった。死因は急性心不全ということで、病死とされた。ご遺体が遺族の元にお帰りになった時に、あまりにも暴力の跡があるということで、遺族の希望で承諾解剖が行われ、その結果、死因は外傷性ショックに変わった。

 こういう事件や給湯器の一酸化炭素中毒事件、東日本大震災などもあり、死因究明の体制を強化しなければいけないということで、法律が整備された。

 こうした中で、最近重要になっているのが人材育成だ。法医を専攻する医師は現在150~160人。以前から人材確保は必要と言われているが、医師の周囲でサポートしてくれるような方の存在感や必要性がクローズアップされている。

 法医学で行う死因究明は正確であるべきだが、解剖だけでは絶対に無理。解剖に付随してDNA検査、画像診断、生化学検査、薬毒物検査といったそれぞれのエキスパートが共同して行うことで、やっと正しい死因究明につながると思う。医師はそれぞれの専門分野の方に助けられて、正確な死因究明につなげていくのが役目だと思う。

 これからは医学科学生の医師だけではなく、その他の分野の専門を究めていくことが、法医学の現場を正しく導いてくれると期待している。


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