こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第12回 どう向き合うか、乳がんの闘病生活
家族、仕事、お金の問題と対策 東京慈恵会医科大の現場から

 乳がんと診断され、治療が行われる過程では、病気のこと以外にも多くの問題が生じてきます。人間は一人ではなく、家族、社会と密接に関わり合いながら生きているからです。今回は乳がんにかかった場合に想定される主な問題について考えてみたいと思います。

 「がんです」と医師から告げられた後は、誰でも頭が混乱してしまいがちです。「まさか自分が」「なぜ自分だけ」「仕事はどうしよう」「家族にどう話そう」などと、さまざまな思いが交錯します。そんなときはまず、冷静になって、病状、家族、仕事、経済的問題などについて、何が問題なのか考えてみましょう。問題を一つずつ箇条書きにして一覧できるようにすると、整理して考えるのにいいと思います。

 ◇できるだけ家族に病状話して

 では、家族とは、どのように向き合ったらよいでしょうか。

 原則として、家族にはなるべく隠さずに病状を話して協力を求めましょう。小さな子どもや高齢の両親に対し、無理に理解を求めるのは困難かもしれませんが、小学校高学年くらいの子どもであれば、平易に説明すれば理解してもらえると考えられます。

 逆に、説明しないでいると、「母親の様子が変わった」「隠し事をされている」などと子どもが感じて、繊細な心を傷つけてしまう可能性があります。

 最近はネットの普及・発達に伴い、患者の家族や友人が、患者本人を心配するあまり、ネットの検索に没頭し、正確な病気に対する知識がないままに、いたずらに不安をあおるような情報を本人に伝えてしまうことがあるので注意が必要です。病気の種類、病状は一人ひとり異なるので、個人の正確な病状の把握が何より大切です。

 家族は最も近くで患者を支える大切な存在です。家族内での意思疎通、情報共有に努めましょう。担当の医療従事者からの説明を受けることは家族にとっても大切ですが、医療機関からの情報の窓口役の家族はできるだけ決まった人にお願いするのがよいと思います。

 ◇休職から復職し、治療と両立も

 仕事とは、どのように向き合ったらよいでしょうか。

 乳がんになったからといって、すぐに仕事ができなくなるわけではありません。また解雇されることもありません。ただし、正社員、パート、自営などとさまざまな就労形態があるので、一概には語ることはできません。

 かつては、がんイコール死、社会からの脱落というイメージがありました。このため会社に提出する診断書にも正確な病名を記載しないことがありました。

 しかし現在では、がんは決して死と結びつくものではありません。乳がんの予後が比較的良好なこともあり、社会での受け止め方も大きく変わってきています。会社では人事労務を担当する部署が中心となって、患者の休業から就労までを支援することになります。

 がんが見つかって治療のために休職する段階で、職場では仕事に関する引き継ぎや申し送りの必要があります。人事担当者や上司などに具体的な病名を告げる必要はありませんが、分かる限りで休職予定を伝えておくことが肝要です。

 医療機関の担当医師には自分の仕事内容を具体的に伝え、勤務の継続、休職、復職について相談するのがよいと思います。専門病院には、がん看護が専門のスタッフがいることが多いので、具体的に手術や化学療法といった治療と仕事の両立について相談してみるのもよいでしょう。

 正社員以外の就労形態の場合は、就労支援体制が十分でないのが現実です。個別に定められた就業規則にもよるので、就労先の担当部門と相談してみましょう。

 自営業の場合は就労環境がさまざまですが、乳がんになったからといってすぐに諦めるのではなく、仕事の継続が図れるよう工夫していくことです。乳がんの治療は長く続きますが、労働に影響が出るのは多くの場合、初めのうちだけで、時間がたつにつれ元のように仕事ができるものです。

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