こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第12回 どう向き合うか、乳がんの闘病生活
家族、仕事、お金の問題と対策 東京慈恵会医科大の現場から

 ◇知っておきたい傷病手当金、高額療養費制度

 経済的問題とは、どう向き合ったらよいでしょうか。

 がんにかかって会社などで働けなくなり、収入が途絶えた場合は一定期間、保険組合から給与の3分の2程度の収入を保障する傷病手当金という制度があります。非正規社員でも健康保険料を本人が納めていて、かつ家族内の扶養家族でない場合、この制度を利用できることが多いと思います。

 また、医療費が規定の額(収入により異なる)を超えた場合に、それ以上支払いの必要がなくなる高額療養費制度という制度もあります。所属する保険組合に相談しましょう。

 会社との雇用関係が消失して、個人資産がなく、収入の道が全く途絶えた場合は生活保護を申請することになります。申請については、医療機関のソーシャルワーカーに相談することもできますが、申請窓口は、都道府県や市区町村が設置している福祉事務所となります。

 生活保護の受給者は、厳しい生活を強いられますが、生活保護寸前で収入を得るため頑張っている方に比べると、医療費負担の免除など、がん治療を受ける上で有利な点が多い気がします。

 がんの治療には、長期間にわたり経済的な負担がかかります。がん保険を含めた自己防衛策も普段から検討しておくべきでしょう。

 ◇一人で問題を抱え込まずに相談を

 最後に、医療機関との向き合い方にも触れておきます。

 自分の命を託して選んだ医療機関ですが、治療の途中でさまざまな不安や葛藤が生じることはあると思います。担当医に納得がいくまで説明を受けられればよいのですが、必ずしも十分でないこともあるでしょう。

 全国に400以上あるがん診療連携拠点病院には、がん相談窓口(がん相談支援センター)が設置され、治療法や療養生活などがん治療に関するさまざまな相談に応じています。その病院への通院の有無にかかわらず利用できるので、何か問題が生じた場合は、近くのがん診療連携拠点病院へ問い合わせてみましょう。国立がん研究センターの「がん情報サービス」のウェブサイトには「がん相談支援センターを探す」のコーナーもあって探しやすくなっています。

 乳がんで治療が必要になったときには、これまで紹介したように、家族のこと、仕事のこと、経済的なことなどさまざまな問題が生じてきます。冷静に問題を整理して、方法を考えましょう。決して一人で問題を背負わず、相談できるところは積極的に利用することが大切です。(東京慈恵会医科大学附属病院乳腺・甲状腺・内分泌外科 鳥海 弥寿雄)

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