こちら診察室 総合診療かかりつけ医とは

日本のかかりつけ医の現状 【第1回】

 皆さんは「かかりつけ」について本気で考えたことはあるでしょうか。ほとんどの方は聞いたことがある程度だと思います。クリニックは大抵、ご高齢の方はいつもの薬をもらいに行く所、働き盛りの方は健診や人間ドックで引っ掛かる所、若い方は風邪を引いたときに行く所のような感じでしょう。「あなたのかかりつけは誰ですか?」と聞かれたとき、思い付くのはよく受診するクリニックだと思います。それは正しいのか、間違っているのか。そもそもかかりつけという言葉は、誰がなぜ決めたのか。その言葉にどんな意味があるのか。これから連載中に話していきます。

 ◇幾つもの診察券が財布に

 現在日本には、医師が過去最高の約34万人います。そのうち、病院に勤務する医師は約半分の17万人、クリニックに勤務しているのは約10万人です。また日本には約10万のクリニックがあり、年々徐々に増えている傾向にあります。皆さんは、これだけあれば安心だと思いますか。フリーアクセス医療といって、日本では海外と違い、自由に病院やクリニックを探して受診できます。とても自由な医療制度なので、自分の病気によって受診する病院も分けている方がほとんどでしょう。つまり現時点の日本では、受診する病院・クリニックを一つにする必要もありません。幾つもの診察券が財布に入っています。つまり、患者さんからすれば、かかりつけ医が複数いることになります。

 頭痛ではA脳神経外科クリニック、高血圧ではB内科クリニック、腰痛ではC整形外科クリニック、認知症ではD病院など、一人の高齢者が毎日違う病院・クリニックを受診し、薬だけもらいに行きます。そこにはご家族も付き添います。ご家族がいなければ、足が悪い高齢者が電車や交通機関を使って1日がかりで往復します。このような状態は普通なのでしょうか。暮らしやすいのでしょうか。今はまだぎりぎり日本の地域医療が保てているように見えていますが、あと10年、20年、30年後はどうなるか考えてみましょう。

 増える要介護・要支援者

 2040年問題を聞いたことがありますか。現在85歳以上の方は約600万人ですが、40年には既に1000万人を超えていると推計されています。また現在約690万人の要介護・要支援者(人に手伝ってもらって生活している方)が、同じく、ほぼ1000万人になります。しかし、介護する若い人が激減していきます。このように、高齢者の割合が急速に高まり、介護が必要な方が急速に増えていきます。必ずこのような日本になると分かっています。皆さん、怖くならないですか。自分やご家族が病気になったときに、どこの病院・クリニックを受診するのですか。

かかりつけ医には、どんな症状・相手でもまず診るスタンスが必要(イメージ画像)

 病院に連絡したら主治医がいないと断られた、日曜にけがをしたがどこに行けばいいか分からない、いつも薬をもらうクリニックに行ったら専門じゃないと言われた――などという声が、このままだとあふれ返ります。近い将来、日本の地域医療は守られなくなります。ここで「かかりつけ」という言葉が出てきます。私が思う本当の「かかりつけ」とは、患者さんのどんな症状も専門に限らず、まず診て次につなげてあげられる医師のことです。臓器別ではなく、患者さんを一人の人間として命を責任持って診る医師です。

 安心して暮らせるように

 現在10万あるクリニックは、ほとんどが専門や臓器別になっています。大半のクリニックの医師は自分の得意分野でしか診療しませんし、平気で断ります。それをどうこう言っているわけではありませんが、今後の日本には「いつでも、なんでも、だれでもまず診る」マインドを持った医師が増え、開業しないといけないのです。自分の病気をまとめて診てくれる、どんなことにもいつでも対応してくれる。そんな信頼できる医師を患者さんはかかりつけと呼ぶようになります。高血圧糖尿病認知症も、風邪も頭痛胸痛も腰痛も、ちょっとした相談も、まず受診できるクリニックが日本中にあれば安心して暮らせます。

 高齢者が病院を探せないのです。どこに行けば診てもらえるのか分かりません。そういう方が増えないようにしないといけません。自分のかかりつけ医は信頼できる医師一人です。そのためには、本当のかかりつけ医を全国に増やさないといけません。しかし、今の日本の医学教育ではそのような開業医は増えないのです。これからの連載で、いろんな問題について触れていきたいと思います。(了)


 菊池大和(きくち・やまと)

 日本慢性期医療協会総合診療認定医、日本医師会認定健康スポーツ医、認知症サポート医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)。2004年、福島県立医科大学医学部卒業。湘南東部総合病院外科科長・救急センター長、座間総合病院総合診療科などを経て、総合診療のかかりつけ医として地域を支えるため、2017年に「きくち総合診療クリニック」開院。著書に「『総合診療かかりつけ医』が患者を救う」(幻冬舎)。

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