女性アスリート健康支援委員会 選手のコンディションを科学で支える

月経による体調変化、自身で記録・把握を
~相談しやすい雰囲気づくり重要~ ―スピードスケート科学スタッフに聞く―

 長年にわたりスピードスケートのトップ選手らのサポートに携わってきた鈴木なつ未・拓殖大准教授。スポーツ医学の専門家で、科学的な見地から選手のコンディション調整に力を尽くす。女性選手の体調を管理する上で、月経は軽視できない。選手自身はどう向き合い、周囲はどう対処したらよいのか。このほど刊行された著書で「月経教育」の重要性を力説する同准教授に話を聞いた。

インタビューに答える鈴木なつ未准教授

インタビューに答える鈴木なつ未准教授

 ◇恩師の導きでスポーツ医学の道に

 ―スポーツ選手のコンディショニングを研究したきっかけや、スピードスケートの科学スタッフとして選手のサポートに携わるようになった経緯を教えてください。

 もともと選手として柔道競技をしていて、大学から実業団へ進む道を考えた時期もありました。けがなどもあって競技を続けるのは難しいと感じていた大学3年生の時、恩師である今の柔道部監督が着任。その監督の下でスポーツ科学やスポーツ医学に基づいたトレーニングをしたり指導を受けたりし、それを学んで還元できる人になりたいと考えるようになりました。

 監督に相談したところ、出身校である筑波大の大学院進学を勧められ、柔道日本代表のメディカルドクターであり同大学で女性スポーツ医学を研究されていた教授の研究室に進学することになりました。

 大学院で博士号を取った後、国立スポーツ科学センターの研究員に採用されました。私には担当種目として柔道が割り振られたほか、その当時、スピードスケートのジュニアのサポートが始まることになり、ジュニアのヘッドコーチから「女性スタッフとして合宿に同行してもらえないか」と要請されました。スピードスケートについては素人でしたが、「私でできることがあれば」と引き受けました。

 スタッフに加わってから、私が女性アスリートのコンディショニングを研究していることをコーチらが知り、選手のケアも手掛けるようになったという感じです。15年ほど前です。

 ◇情報見極めが大切、疑問は放置しない

 ―体調管理の上で、選手らに重要性を伝えたり要請したりしたことはありましたか。

 スピードスケートのジュニアの合宿で、選手に毎朝、体重や体温を測り、日誌に付けてもらうようにしました。そのデータを私たちスタッフが見て、コーチに説明を交えながらフィードバック。体調の確認やトレーニング量の調節などの判断材料にしてもらいました。

 自分の体を自分でしっかりチェック・理解し、何か不調があったときに「ここがこうだから、こういうふうにしてほしい」「こういうところを見てほしいと周りの人に伝えられるようにするのはすごく重要です。女子選手の場合には、月経を含め自分にどんな症状があり、どんなときにつらいかが分かっていないと説明できません。その意味で印象的だったのは高木美帆選手で、出会った時にはすでに、自分の体の状態について進んで質問に来ていました。

 トップ選手、メダリストを間近で見ていると、やっていることは他の人と変わらないと感じます。体調チェックにしても、特別なことをしているわけではなく、当たり前のベーシックなことをしっかりと積み上げています。

「女性同士でも月経などの話は意外としません」と鈴木准教授

「女性同士でも月経などの話は意外としません」と鈴木准教授

 ―以前と比べると、女性選手の生理などへの配慮はなされるようになってきていますか。

 10年前、20年前と比べると情報は相当多いし、SNSやユーチューブなどの普及でアクセスもしやすくなっています。月経に関してもそうですし、コンディショニングやトレーニングの情報などもいろいろな所に出ています。

 その中で、どれが正しく、どれが自分に合っているのかを見極める目を養わなくてはいけません。たくさんの情報の中から取捨選択する時代になってきています。

 今、大学で学生と接している中でよく思うのが、分からないことを分からないままにしておく人が結構多いことです。こちらが気になって「分かってる?」と聞くと、「分かりません」という答えが返ってきます。トップにいくような人たちはそのままにしておきません。自分の体のことですし、疑問が湧いたら一つずつつぶしていきます。そういうところがすごく大事だと感じます。

 ◇指導者は向き合う姿勢を

 ―男性と女性の指導者では女性の生理などへの対処の仕方に違いはありますか。

 男性指導者は自分では経験できないので、女性よりは理解を深めるのが難しいでしょう。講習会や研修会でも「どうやってアプローチしたらいいのか」と聞かれることがあります。一方、女性指導者でも月経痛に悩まされたりした経験がないと、「それぐらいは大丈夫でしょう」となる場合があります。実際にそういう指導者がいたと選手から聞きました。

 女性でも男性でも、理解して対応するというところにおいて違いはありません。ただ、男性指導者はハラスメントなど気を配らなければならないことが多いと思います。周りの女性や保護者を通じて聞いてもらったり、日誌に書いてもらったりという方法を使い、うまくアプローチしてください。

 指導者が月経についてしっかり理解してくれていると分かれば、選手は話しやすくなります。実際、スケート選手への講義で男性指導者に同席してもらったところ、講義の後に「一緒に聞いて理解してくれているということが分かったので話しやすくなった」と言っている選手もいました。

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