こちら診察室 総合診療かかりつけ医とは

クリニック普及のアイデア 【第5回】

 今回は「国」「医学部・大学病院」「自治体」「開業を考えている・既に開業している医師/医学部生・研修医」に分け、それぞれに期待する総合診療クリニック普及に向けたアイデアをお話ししたいと思います。読者の中に関係者がいましたら、伝えていただけたら幸いです。

 このままでは日本の医療の土台である地域医療が守れなくなるというお話を、これまでしてきました。「All for One」の精神で、さまざまな職種の方たちが地域医療を真面目に勉強し、発言し、行動する必要があります。高齢者の健康を維持するために何ができるのかを考え、どこに受診すればいいか分からない体力の落ちた高齢者を減らさないといけません。

 政治の力で援助を

 まず国に対して申し上げたいのは、政治の力で何とかしないと時間的に間に合わないということです。ご承知の通り、開業するのは医師の自由で、診療内容も自由です。受診に来た患者を平気で断ることもできます。ここに強制的に罰則を与えるのは難しいと思います。

 開業すること自体に多額の借金が必要で、医師にとってハードルが高くなっています。そこで総合診療クリニックを開業するときの費用面の援助をお願いしたいのです。

 あるいは、国が総合診療クリニックを開設し、そこで医師を雇用するような「国立」の仕組みを、全国各地(おおむね人口2万人に1カ所)に設けるアイデアはいかがでしょうか。そこは、受診した患者をまず診ることが必須になります。いろいろな意見が出ると思いますが、一つの案として提案いたします。

 ◇必要性を勉強させる

 医学部・大学病院には、医学部教育の中で地域医療、特に総合診療クリニックの必要性を医学生に勉強させてほしいと申し上げたい。まだ医学のことを知らない学生にしっかり勉強してもらい、将来開業する医師を育てていただきたいのです。

教育や研修で総合診療かかりつけ医育成を(イメージ)

 大学病院での研修中に、終了後10年で開業できる総合診療かかりつけ医開業プログラムを作るのはいかがでしょうか。開業できる知識を勉強させてサポートします。開業後も医師を派遣し、病診で連携を取れば、患者はクリニックに通院します。開業サポートでも、A大学付属総合診療クリニックといった形でもいいと思います。

 総合診療クリニックには、別に総合診療専門医でなくても勤務できます。総合診療、外科、救急など一通りcommon disease(一般的な病気)を勉強すれば問題ありません。これを読んでいる医学部関係者の方々も考えてみてください。

 ◇費用サポートや医師の雇用

 真面目に将来の医療を考えている自治体も増えてきています。小児科の医師不足を背景に、小児科を開業したら資金を援助する自治体もあります。

 医療に不安がある地域では住民は安心できません。そこで、自治体に対して申し上げたいことがあります。総合診療クリニックが各市町村や人口2~3万のエリアに一つあれば、地域に密着した医療ができると思います。開業の費用面をサポートしたり、CTやMRIなどの高額な医療検査機器費用を援助したりするのもいいと思います。また、A市立総合診療クリニック、B町立総合診療クリニックなどを建設し、医師を雇用するのもいいでしょう。そこで大事なのは「まず診てくれる」ことです。

 ◇地域医療で患者を守る

 今回の新型コロナウイルス感染症の大流行を経験し、日本中が大変困りました。ほとんどのクリニックが発熱患者を診なくなり、いわゆる診療難民が増え、地域医療を支えられなくなりました。本当のかかりつけ医は、どんな症状でもまず診察しなければいけません。医師でなければ、誰が診るのでしょうか。患者の健康を守るのが医師の仕事です。患者はまず近くのクリニックを受診します。そこから診察・治療が始まるのです。 

 そこで、医師になりたいと思っている学生や医学部生、研修医、これから開業しようと思っている方々に申し上げたい。一緒に地域医療を守りませんか。救急と一般的な疾患を勉強して、総合診療クリニックを開業しましょう。一人で担うのではなく、複数の医師が関わればいいのです。

 近隣の総合病院と顔の見える関係で、患者をスムーズに紹介できるようにしましょう。患者を地域医療で守りましょう。私が開業して思うのは、本当のかかりつけ医は医師の最高のやりがいだということです。

 最も患者に近い場所にいることが、医師としての役割です。総合診療クリニックを開業して実感しているのは、地域のニーズが高いということです。必ず地域になくてはならないクリニックとして、医師も成長します。クリニックの間口を広げることがとても大事です。

 さまざまな立場の方が、いろいろな方面から地域医療を支えるために総合診療クリニックを普及させた方がいいと思い、私の意見を述べました。(了)


 菊池大和(きくち・やまと)

 日本慢性期医療協会総合診療認定医、日本医師会認定健康スポーツ医、認知症サポート医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)。2004年、福島県立医科大学医学部卒業。湘南東部総合病院外科科長・救急センター長、座間総合病院総合診療科などを経て、総合診療のかかりつけ医として地域を支えるため、2017年に「きくち総合診療クリニック」開院。著書に「『総合診療かかりつけ医』が患者を救う」(幻冬舎)。

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