世界に遅れる日本の人工妊娠中絶
~かかりつけ医持とう~ 産婦人科・堀本江美医師に聞く(下)
経口妊娠中絶薬「メフィーゴパック」の国内承認から1年が経過した。取り扱いを始めた医療機関はまだ限定的で、入手困難な地域もあるなど利用体制が整ったとは言えない。
後編では、人口妊娠中絶に詳しい苗穂レディスクリニック(札幌市)の堀本江美院長が、日本の中絶方法がいかに時代遅れだったか、現在の状況下で女性たちにはどのような選択肢があるのかなどを解説する。
◇簡略・低リスクの手術法ようやく
―日本では人工妊娠中絶に薬剤を用いる医療機関が限られるということでした。ほとんどは手術ですか。
堀本院長監訳の「薬剤による妊娠中絶ハンドブック」より
表のように、欧州では薬剤による人工妊娠中絶が9割を超える国もありますが、日本ではまだ手術がほとんどです。その手術にしても、2016年にソフトチューブを用いた手法が認可されるまでは、搔爬(そうは)法といって、棒状の器具で子宮口を開く前処置を行ってから、金属製の器具を入れて子宮の内容物をかき出す方法が長年行われてきました。
8年前にフランスで中絶手術を見学した時、日本の状況を話すと「今どき、そんなことをしているのか」と笑われました。そして、その時に見たソフトチューブによる吸引法だと、前処置がいらず、局所麻酔で簡単にできることに衝撃を受けました。術後の出血も痛みも掻爬法とは比較にならないほど少ないのです。
経腟分娩(ぶんべん)の経験がある人の子宮口はすぐに開きますが、未産婦あるいは出産経験があっても計画的に帝王切開を行った人の子宮の入り口は硬く、2~3ミリの器具を通すのがやっとという人もいます。このため、掻爬法で器具を子宮内に入れるには、子宮口を広げる前処置が不可欠でした。また、掻爬法では医師が手探りで子宮の内容物をかき出すのですが、子宮のカーブの仕方や方向は個人差が大きく、子宮に穴が開いたり、傷が付いたりして不妊になるケースもありました。
ソフトチューブによる吸引法が行われるようになってからは、そうした合併症のリスクが避けられるようになりました。硬い器具でかき出すよりチューブで吸引した方が、体へのダメージが少ないのは当然といえば当然です。
◇体への負担少ない飲み薬
―手術と薬剤のメリットとデメリットを教えてください。例えば、費用や体への負担などはどうでしょうか。
日本の場合、人工妊娠中絶は自費負担になるため医療機関によって異なりますが、手術と薬剤の費用は基本的に同程度に設定しているケースが多いようです。国によっては、中絶薬を薬局で購入できたり、無料提供されたりする所もありますが、日本では薬剤による中絶でも、入院設備のある病院で行うといった条件があります。
メフィーゴパックの2種類の薬「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」=ラインファーマ社提供
手術なら局所あるいは全身麻酔が必要ですが、薬剤では麻酔は不要です。また、手術の場合は子宮頸部(けいぶ)裂傷、子宮穿孔(せんこう)などのリスクがあります。体への負担は薬剤の方がはるかに少なくなっています。
中絶できるタイミングは、薬剤は妊娠9週まで、手術は12週まで。12週から22週(21週6日目まで)になると中期中絶と呼び、陣痛を起こして出産形式で行うのが一般的です。
月経の遅れが気になりだした時が5週。もともと月経不順の人は、妊娠に気付かないまま日にちが過ぎてしまいがちです。タイミングが早いほど、体への負担が少ない方法を選択できると知っておきましょう。
―もっと早く気付いた場合、妊娠を防ぐ方法は人工妊娠中絶以外にもありますか。
避妊の失敗に気付いてから72時間以内であれば、緊急避妊薬(モーニングアフターピル)を用いる方法があります。黄体ホルモン(レボノルゲストレル)の入った薬を服用し、受精卵が子宮内膜に着床する前に妊娠が成立しないようにします。ただし、妊娠を100%防げるわけではなく、効果があったかどうかは服用後すぐには分かりません。数日あるいは数週間後に月経が来たときに、初めて妊娠しなかったと分かります。
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(2024/05/21 05:00)