[胃と十二指腸の位置とはたらき] 家庭の医学

 わたしたちが食物を摂取する場合、まず口の中でよくかみ砕いてから嚥下(えんげ)して(飲み込んで)、食物を食道へ送り込みます。食道は管状の器官で、特に消化機能はなく、背骨に接してすぐ左前を下降し胃に至ります。
 食道が横隔膜(おうかくまく)を貫いておなかの中に入って約2cmで胃の入り口(噴門〈ふんもん〉)に到達します。胃のおもな役割は、食物の大まかな消化と貯留です。胃ではペプシンという酵素が胃酸によって活性化され、たんぱく質を小さなペプチドに分解します。このように、胃は食物の初期消化をおこないます。
 胃は食道や腸など管状のほかの消化管とは異なり、曲がったそら豆のような独特の形をしていますが、この形のおかげで食道と胃の境目で巧妙な逆流防止機能を発揮し、食べた物が食道のほうへ逆流しにくいしくみになっています。
 食物は胃で数時間かけて消化され、胃の蠕動(ぜんどう)運動によって少しずつ十二指腸に送られます。十二指腸に入る直前で胃は細くなり(幽門〈ゆうもん〉と呼ばれる)、この部分でリング状に筋肉が厚くなって括約筋(かつやくきん)を形成し(幽門輪と呼ばれる)、十二指腸からの胆汁、膵(すい)液などの刺激の強い消化液の逆流を防ぐしくみになっています。
 人間のからだを輪切り状に検査するCT(コンピュータ断層撮影)検査では、胃の形とはたらきの関係をより理解できます。前から見ると胃はそら豆のような形をしていますが、輪切りにして前後のひろがりの形を見ると、胃の左側の部分(穹窿〈きゅうりゅう〉部)は背骨の左側で背中の方に大きくひろがっており、ここに大量の食物を貯留できることがわかります。
 そのため、食後すぐに横になると、食べた物は胃から容易に十二指腸へと排出されず、この穹窿部に貯留してしまいます。右を下にして横向きになると十二指腸への流出は良好になります。
 十二指腸は、アルファベットの「C」の字のようなループを描いて膵臓の右側を回ってから腹膜のトンネルをくぐり、小腸(空腸)に至ります。十二指腸は食物の消化において重要な役割を担っています。それは、途中で胆汁や膵液などたんぱく質や脂肪の消化に重要な役割を果たす消化液が合流するからです。この消化液の合流部を十二指腸乳頭部といい、ここに肝臓でつくられた胆汁を運ぶ総胆管と膵臓でつくられた膵液を運ぶ膵管が合流して開口しています。

(執筆・監修:自治医科大学医学教育センター 医療人キャリア教育開発部門 特命教授/東北大学大学院医学系研究科 消化器病態学分野 准教授 菅野 武)