デュシェンヌ型進行性筋ジストロフィー症〔でゅしぇんぬがたしんこうせいきんじすとろふぃーしょう〕

 進行性筋ジストロフィー症は、近位筋すなわち肩や腰の筋肉の力がおとろえていく病気です。顕微鏡で見ると、この筋細胞は徐々に死んで、脂肪に変化していきます。もっとも多いデュシェンヌ型の場合は3~5歳ごろに、走れない、階段の上り下りがむずかしい、転びやすいなど、歩行に関する異常で気づかれます。
 筋力がさらに低下すると、しゃがんでから、すっと立てなくなります。床に手をついたり、両ひざに手をついて立ち上がろうとするようになります。さらに進行すると、まず床に手をつき、すこしずつ足を前に動かしてからだの重心の下にもってきます。
 ついで手をひざに当てて背を伸ばし、大腿部に手を当ててようやく立ち上がれるようになります。これは、あたかも自分のからだをよじ登っているようにも見えることから、登攀性起立(とうはんせいきりつ)と呼びます。手足の近位筋が使えなくなる、筋ジストロフィー症に特有の現象です。

 背中の筋肉がおとろえると、背骨がすこしずつ曲がってきます。背骨は左右の背筋で均等に支えられているのですが、その支えがないと重力で左右に曲がってしまうからで、これを「側彎(そくわん)症」と呼びます。

 検査は血液と筋電図、筋のMRI(磁気共鳴画像法)、それに筋生検です。血液ではCK(クレアチンキナーゼ)がいちじるしく上昇しています。筋電図では正常よりも小さい、いわゆる筋疾患型のパターンがみられます。MRIでは、病気のある筋肉が脂肪化することによって近位筋を中心として信号強度が変化しますが、このパターンから診断が可能です。
 どの筋肉が障害されるかで、いろいろな病気に分けられています。
 全身が障害されるもっとも重症型がデュシェンヌ型です。この病気の原因は性染色体の1つのX染色体にあります。この遺伝子座によってジストロフィンという筋肉の膜を構成するたんぱく質がつくられますが、これがうまくつくられなくなるのが病気の原因です。そのために筋肉が徐々に崩壊していきます。X染色体にあるので、XXすなわち女性ではもう1つの正常のXがはたらいて発病せず、XYすなわち男性にのみ発病します。これを性染色体劣性遺伝といいます。3~5歳ごろに歩行障害で発病します。
 筋力は低下していきますが、そのいっぽうでふくらはぎはふくらんでいきます。ふくらはぎが肥大するにもかかわらず、筋力は逆に低下していくことから仮性肥大といいます(上図参照)。
 10代には歩行不能、20歳前後で寝たきりになり、20代に呼吸不全や心不全、感染症で死亡します。
 同じジストロフィン遺伝子の異常がありながら、より穏やかな経過を示すのがベッカー型筋ジストロフィー症です。この病気では、30代まで歩けることもあります。ベッカー型の遺伝子の変異はデュシェンヌ型の変異にくらべて軽度です。
 ジストロフィン遺伝子の異常は白血球のDNAを解析することで、患者の60%ほどは診断がつきます。しかし、残りの30~40%ではポイントミューテーションといって、あまりにも変化が小さすぎるのでDNA解析ではわかりません。この場合には筋生検をおこない、ジストロフィンを染めると、異常があれば筋細胞膜のジストロフィンが染まらないことで診断が可能になります。
 母親には必ず遺伝子異常があり、これをキャリアと呼びます。患者の家族に遺伝子異常があるかどうかの診断は、通常は白血球のDNA解析でおこないます。やはり3分の1のケースではポイントミューテーションのため、陽性であっても診断ができません。この場合にはCKが軽度に上昇していたり、筋のMRI(磁気共鳴画像法)で軽度の変化があれば疑われることになります。
 顔面筋、肩甲筋、上腕筋がおかされるのが顔面肩甲上腕型の進行性筋ジストロフィー症です。進行はとてもおそく、生命にかかわることはありません。血液のCKもさほど上昇はしません。病気の原因は第4遺伝子にある、常染色体優性遺伝です。
 もう一つ多いのが、四肢の近位筋にゆっくりと障害が起こる肢帯型です。一般に生命にかかわることはなく、長寿をまっとうします。
 肢帯型は実際にはいろいろな病気の集合体と考えられ、実際にあきらかにされた染色体の異常は第4、第6、第13、第15、第17染色体などさまざまで、異常を起こすたんぱくも多数あきらかにされてきました。
 進行性筋ジストロフィー症は国が指定する難病医療費助成制度の対象疾病(指定難病)です。

(執筆・監修:一口坂クリニック 作田 学)